いつも訪れる男性患者
私が以前勤務していた調剤薬局は、大きな総合病院の門前薬局ということもあり、いつもお昼過ぎになると一気に混み出す店舗。その日もお昼過ぎから混み始め、バタバタしていました。そんな時、受付から衝撃の一言が聞こえてきました。
「いつもの薬で、いつもの先生で、いつもの順番でお願い!」耳を疑うような内容に一瞬時が止まり、「またこの人だ……」と心の中でため息がこぼれました。
意を消して注意した結果
そもそも処方箋がないと、お薬を渡すことができません。「こんな忙しいなか、説明をしにいくの嫌だな」と思いながらも意を決して男性のところへ。
「申し訳ございませんが、処方箋がないとお薬をお渡しすることができません。処方箋をお預かりしてもよろしいでしょうか? また、大変混み合っておりますので、順番にお待ちいただきますようお願いいたします」と伝えます。
すると男性の顔色が一変。次の瞬間ものすごい勢いで「いつも同じ薬なんだからわかるだろうが! こっちは病院でさんざん待たされて疲れてるんだから、さっさとしろよ。医者でも薬剤師でもないんだから調子に乗るな」とひどい罵声を浴びせられました。
救世主現る
混んでいて、他の薬剤師さんも事務員さんも別の対応中。助けを求めることもできず、言い返せずに言葉を詰まらせてしまったその時、男性の後ろに座っていた女の子からまさかの一言が飛び出しました。
「なんでそんなに怒ってるの? 怒って騒いでいる姿、うちの3歳の弟そっくり!」と天真爛漫は発言。まさに天使が舞い降りたかのよう。救世主が現れました。その瞬間、みんなの視線が男性に集まりました。
そそくさと帰る男性にスカッと
男性は何も言い返せなくなり、顔を真っ赤にして薬局の外に出ていきました。しばらくして薬局へ戻ってきたかと思えば、少し遠慮がちに「お願いします」と処方箋を私へ差し出してくるではありませんか。その後も、静かに順番を待ち、薬を受け取り取ると、そそくさと帰っていきました。
それ以降、その男性はわがままを一切言わなくなりました。今でもあの女の子に感謝していると同時に、あの時のスカッとした瞬間が忘れられません。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2020年5月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:miki.N
医療事務として7年間勤務。患者さんに日々向き合う中で、今度は言葉で人々を元気づけたいと出版社に転職。悩んでいた時に、ある記事に救われたことをきっかけに、「誰かの心に響く文章を書きたい」とライターの道へ進む。専門分野は、インタビューや旅、食、ファッション。