ホームセンター勤務
ホームセンターに勤めて1年目のことです。私はインテリア部門のカーテンや壁紙、床材売り場の担当をしていました。既製品だけでなくフルオーダー商品も取り扱うため、お客さんが求めているものに、どう提案をするのかが重要でした。
ただ、接客の時間が増えることやクレームにも繋がりやすいものであることから、なるべくならフルオーダーの注文は引き受けたくないと思っていた従業員も少なからずいたようです。
注文の多いお客さん
ある日。同じインテリア担当の同僚Aが「客のBさんは何度も来店するが、いつも購入せずに帰る」と言うのです。話を聞いてみると、次のような具合でした。
「家の寸法を測ってきたから、それに合わせてカーテンや床材を既製品で選んで欲しい。これが寸法図のコピーね」と、必要な寸法が書かれた紙をAに渡すBさん。
それを見て、「カーテンの既製品でこのサイズは厳しいです」とA。
しかしBさんは、「フルオーダーだと値段が高くなるから既製品でなんとかならない? それと、カーテンは遮光1級で明るい色がいい。フロア材も既製品で」と難しい注文。その後ああでもない、こうでもないと何時間も要望が続き、結局「また来る」と言い残して帰っていったそうです。
実はそのお客さんは……?!
1週間後に再びBさんが来店してきたのですが、Aから「自分の代わりに接客して欲しい」と言われ、私が対応することに。Bさんの要望は以前と変わっていませんでした。
「既製品でもできなくはないですが、1本のカーテンレールに3枚のカーテンを吊り下げるイメージになります。そうしますと見栄えもあまり良くないです。既製品ではなく、セミオーダーのカーテンはいかがでしょうか? セミオーダーですと、既製品よりは値段は高いですが、フルオーダーより安くなります。」
私がそう提案をすると、Bさんは興味を持ってくれました。
それから数時間後。これまで購入や契約に至らなかったBさんが、ついに購入してくれたのです。Bさんは「嫌な顔せず最後まで寄り添ってくれてありがとう。良かったらこれどうぞ」と話すと、私に某遊園地のパスポートと、「代表取締役社長」と書かれた名刺を渡してくれたのでした!
接客業の良さ
ホームセンターには様々なお客さんが来店されます。他の仕事が進まないので、長時間の接客はなるべくなら避けたいと誰もが思うものかもしれません。
しかし、そんな難しい接客の後にお客さんからかけてもらえる「ありがとう」の言葉で私たちは「この方法でよかったのだ」と思えますし、今後も頑張ろうという糧にもなってくれるのです。
【体験者:20代・女性主婦、回答時期:2020年4月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:佐野陽菜里
大学卒業後、企業で管理職として活躍するも、妊娠出産を機に退職。育児しつつ、「自分の言葉で文章を書いて、発信したい」とライターに転身。接客業や恋愛のテーマを得意とし、日々インタビューをして情報を収集。