「雨雨ふれふれ母さんが、じゃのめでお迎えうれしいな ♪」そんな童謡のように、保護者がわざわざ傘を届けに行く光景は、今ではあまり見られなくなったのかもしれません。私のお客様がある日、息子に傘を届けた先で目にした光景とは……

受験前夜

息子が高校三年生のときのこと。指定校推薦の小論文と面接を翌日に控えたある夜、息子は予備校で遅くまで追い込みをしていました。

その日は、天気予報が外れ大雨に。息子が傘を持っていないことを思い出し、過保護かなと思いつつも「今日風邪をひいたら大変」と考え、私は傘を持って予備校へ向かいました。

息子の隣には

ちょうど授業を終えた息子の姿が見え、声をかけようとした瞬間。彼の横には女子高校生。二人は楽しそうに会話をしていて、息子がその子に好意を抱いていることは母親の目から見てもすぐにわかります。

私が声をかけられずに立ち尽くしていると、予備校の先生が一本の傘を貸し出し、一緒に帰るかどうか楽しそうに悩む二人。私は寂しさを覚えながらも「邪魔してはいけない」と思い、持ってきた傘を握りしめたまま帰ろうとしました。

二本の傘を握りしめ

その時、同年代の女性が二本の傘を持って帰ろうとしている姿が視界に入ります。私は「あの女の子のお母さんだ」と直感しました。目が合い、軽く会釈をした瞬間、私は濡れた床に足を滑らせて転倒。さらに運悪く捻挫したらしく、一人では立つのも厳しい状態でした。

するとその女性が駆け寄ってきて、「大丈夫ですか? 立てますか?」と声をかけ、タクシー乗り場まで肩を貸してくれたのです。思い切って尋ねると、やはり女性は息子の横にいた女の子の母親でした。

そこで「うちも過保護かなと思ったんですが、受験生が風邪をひいたら大変だと思って傘を持ってきたら、余計なお世話でしたね」と話すと、自然に会話が弾みました。彼女のお陰でみじめな気持ちは自然となくなっていたのです。

雨の日の思い出

その後、息子と女の子は交際に発展し、母親同士も仲良くなりました。やがて二人は別々の大学に進学し、大学二年生の頃に破局。今ではそれぞれ結婚し家庭を築いています。それでも母親同士の友情は続いていて、今も大の仲良しです。

私は今でも雨の日に予備校の前を通るたび、初めて息子が好きな子を見つめる姿を見た日のことを思い出します。少し切なくなると同時に、あの日のおかげで今も繋がる友人ができたことを思い返し、心が温かくなるのです。

【体験者:60代・専業主婦、回答時期:2026年5月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:桜井ひなの
大学卒業後、金融機関に勤務した後は、結婚を機にアメリカに移住。ベビーシッター、ペットシッター、日本語講師、ワックス脱毛サロンなど主に接客領域で多用な仕事を経験。現地での出産・育児を経て現在は三児の母として育児に奮闘しながら、執筆活動を行う。海外での仕事、出産、育児の体験。様々な文化・価値観が交錯する米国での経験を糧に、今を生きる女性へのアドバイスとなる記事を執筆中。日本でもサロンに勤務しており、日々接客する中で情報リサーチ中。