コーヒー好きの父が始めたアルバイト
父は長年勤めた大手企業を定年退職したあと、「せっかくなら好きなことをして過ごしたい」と、チェーンのカフェでアルバイトを始めました。
私は「管理職まで勤めた父がアルバイト? 」とはじめは驚きましたが、もともとコーヒーが大好きだった父は、「毎日コーヒーの香りに囲まれて働けるなんて」と、とても嬉しそうにしていたのです。
ところが、働き始めてしばらく経つと、次第に父の表情が曇るようになりました。
原因は厳しい店長
心配になった私が理由を聞いても、「ちょっと店長が厳しい人でね」と苦笑いするだけ。父は昔から人の悪口を言わない性格で、それ以上は教えてくれませんでした。ただ、以前は楽しそうに話していたカフェの話をほとんど口にしなくなったのです。
そのカフェは私も何度か行ったことがあったので、仕事が休みの日に、客としてこっそりと父の様子を見に行くことにしました。
客席から見えた店長の態度
カフェに入ってしばらくすると、30代くらいの男性店長の声が聞こえてきました。「これ前にも言ったじゃん」「そんなのもわからないの?」明らかに相手を見下した言い方。
そちらに目をやると、言われていたのは父でした。客席まで聞こえるような強い言い方で、私は父親の顔が曇った原因はこの人だとすぐに気がつきました。
父に戻った笑顔
それから1か月ほどたったころ、父がまた明るくなりました。「何かあったの?」と尋ねると、「店長が変わったからかな……」と教えてくれたのです。
店長の父への態度は日頃からだったようで、「いくら店長とは言え、きつく指示するのが聞こえて気分が悪い」と客から本部に複数クレームが入ったのだとか。
ホッとした私は「よかったね」と言いましたが、父は「若いのに店長も大変だな」と店長をかばうようなことを言っていました。最後まで店長の悪口1つ言わなかった父。私にはそんな余裕のある父の姿が、とてもかっこよく見えました。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:小橋美月
マスコミ業界に16年勤務。業界で培った原稿執筆のスキルを活かし、ライター業へ。さまざまな職種、ライフスタイルの人への取材を通じた、「生きたエピソード」が強み。働く女性の葛藤や子育て、夫婦関係など、実体験に基づいたリアルな物語を届ける。