夫との野球観戦
私の夫は、子どもの頃から野球をしていて、観戦も大好きです。付き合っていた頃から、デートで球場へ連れて行ってもらうこともありました。ただ、正直に言うと、私は観戦が少し苦手でした。というのも、夫は試合がヒートアップするとかなり口が悪くなるのです。
「何やってんだよ今の〜!」「それくらい取れよ!」など、感情がそのまま言葉に出てしまうタイプでした。もちろん周りも盛り上がっていますし、同じようなテンションの人もたくさんいます。だから私も「ちょっと声大きいよ」などと軽く注意しつつ、(スポーツ観戦ってこういうものなのかな……?)と思っていました。
負けムードの試合で
そんなある日、いつものようにふたりで野球観戦に行ったときのことです。応援しているチームは負けムードで、夫も段々イライラしてきたのか、また文句を口にし始めました。「だから打てって〜!」「マジかよ、最悪……」と、かなり熱くなっています。
私は(また始まったな……)と思いながら、周りに少し申し訳ない気持ちになっていました。
近くの席から聞こえてきた会話
するとそのとき、近くの席にいた20代くらいの女性が、一緒に来ていた男性にふとこう話しかけたのです。「ねぇねぇ、なんで選手がミスしたらみんな怒るの?」男性は少し考えてから、「みんな本気で応援してるからじゃない?」と答えました。
でも女性は、不思議そうに首をかしげながら続けます。「ふ〜ん……でも、こっちは見てるだけなのに?」「そりゃチケット代は払ってるけど、楽しく見たほうが良くない? 怒るほどのことなの?」素朴な疑問という感じの口調でしたが、その声は夫の耳にも普通に入る距離でした。
夫が気づいたこと
すると夫は、さっきまでの勢いが嘘みたいに急に黙り込みました。そして少し気まずそうな顔で、「……なんか、冷静に言われると恥ずかしいな」とぽつり。そのあとも試合は最後まで見ていましたが、夫が大声で文句を言うことはありませんでした。
それ以来、観戦中に熱くなることはあっても、以前みたいな荒っぽい言い方をすることはかなり減りました。夫にとっては、慣れすぎて普通になっていたのかもしれません。でも、まったく違う視点からの言葉を聞いたことで、急に自分を客観視できたようです。あのときの女性の「なんで?」に、私はひそかに感謝しています。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2026年2月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。