待合室のテレビで人気なのは
私の働いている薬局の待合室では、いつもテレビをつけています。患者さんが待ち時間に見るためだけでなく、薬の説明が他の人に聞こえづらくする「雑音」の効果もあるからです。
特に夏の甲子園のテレビ中継を放送している時期は、多くの患者さんが集中して試合を見ています。毎月薬をもらいに来る佐藤さん(仮名・60代男性)も、そのひとり。試合を見て熱狂し、「よっしゃ!」「ナイス!」「惜しい!」と興奮して大きい声で叫ぶ姿がありました。
迷惑しているのに気づかない
ある夏の日も、佐藤さんはテレビの正面に座り、甲子園の試合中継を見ながら大声で応援していました。しかしその日、佐藤さんの隣に座っている患者さんは明らかに体調が悪そうでぐったりしています。そしてうんざりした様子で佐藤さんから離れるように席を移動してしまいました。
さらに佐藤さんの近くにいた1歳くらいの赤ちゃんは、佐藤さんの声にビクッと反応し、泣きだしてしまいました。赤ちゃんの母親が睨みつけるように佐藤さんを見ますが、本人は気づいていない様子でテレビに集中しています。
ここは球場ではありません
そして佐藤さんの薬の準備ができたので薬剤師が呼んでも、「今ちょうどいいところだから」と言い、立とうとしません。試合が休憩時間に入り、ようやく説明を聞きに投薬カウンターへ来た佐藤さん。薬局長が呆れた様子で言いました。
「ここは球場ではありません、薬局です。テレビを見に来たわけではないですよね? 薬局内では体調が悪い患者さんもお待ちになっています。応援したい気持ちもわかりますが、少し声のトーンを下げていただけますでしょうか」
便利なサービス紹介で解決へ
そして薬局長は続けます。「通院の時間帯と甲子園の放送時間って重なりますよね。でしたら、ご自宅で試合を観戦している間にお薬の準備をすることもできますよ。用意ができたらスマホに通知するサービスがあります」最後に笑顔で「あまり興奮しすぎて血圧が上がらないようにしてくださいね」と伝えました。
佐藤さんは照れ笑い。その後は薬局長が勧めたサービスを利用するようになり、薬局内でテレビを見ながら大声を出すことはなくなりました。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2026年5月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:伊村えりか
薬剤師歴12年。就業を通じて多くの人生や、悩み、奇跡などに直面し、それらを伝えるべく執筆活動を開始。職場や同世代の女性との会話をもとに、医療現場の裏側から家族の「あるある」まで、多岐にわたるテーマで執筆を手がける。子育てサイトのアンバサダーを務め、身近な視点を活かしたコラムを執筆中。