「女のくせに生意気だ」とコップを奪う義兄
私の夫の実家は、少し古い考え方が残る家系でした。私が20代の頃、親戚一同が集まる本家での宴席でのことです。 テキパキと動き回り、ようやく一息ついた私は、喉の渇きを潤そうと手元のビール瓶に手を伸ばしました。
するとその瞬間、隣の席にいた義兄が私の手から乱暴にコップを取り上げたのです。「おい、女のくせに酒なんて生意気だぞ! 嫁の分際で昼間からお酒を飲むなんて信じられない。ほら、さっさと台所に行って男たちの茶でも淹れてこい!」
突然の怒号に、楽しかった宴席の空気は一瞬で凍りつきました。見かねた夫が「兄貴、言い過ぎだよ。今はみんなで楽しく飲んでるんだから」と私をかばおうとしてくれました。しかし、プライドの高い義兄は聞く耳を持ちません。
「お前は嫁を甘やかしすぎなんだよ! うちの母さんを見ろ。これまで親父や俺たちに、一滴もお酒を飲まずに尽くしてきただろ。それがこの家のメソッドなんだよ!」義兄は腕を組み、ふんぞり返って自分の偏った主張を私たちに押し付け続けました。私は悔しさで下を向くしかありませんでした。
30年目の静かな覚醒
その時です。ドンッ! という激しい音が響き渡りました。 義兄が「お手本」として引き合いに出した義母が、持っていたウーロン茶のグラスを思い切りテーブルに叩きつけたのです。
「……それ、私がこの家で30年間、一番嫌いだった言葉なのよ」義母の低く、ドスのきいた声に、義兄は「え……?」と声を詰まらせました。
実は、義母は本当は大のお酒好きでした。しかし、亡くなった義父の強烈な亭主関白と、この家の古いしきたりに耐えるため、30年もの間、涙を呑んで禁酒を貫いていただけだったのです。義母は義兄を冷たい目で見据えたまま、立ち上がりました。
「今日でお母さん、この家の『お嫁さん』を引退します! 私が我慢してきたからって、次の世代の佳子さんにまでその腐った考えを押し付けるんじゃないよ!」
義母の逆襲
「佳子さん、床下収納から一番高いお酒を持ってきなさい!」義母の凄まじい迫力に、親戚一同は完全に言葉を失いました。さっきまで大威張りだった義兄にいたっては、見たこともないほどガタガタと震え上がっています。
私が慌てて持ってきたのは、義父が生前にコレクションしていた未開封の高級シャンパン。義母はそれを景気よくポンッと開けると、私のグラスになみなみと注いでくれました。
「さあ、これからは私たちの時間よ! 乾杯!」その日はそのまま、義母と私の大宴会へと突入しました。今まで抑圧されていた反動からか、義母の飲みっぷりは見事なもので、私はすっかり義母の格好良さに惚れ込んでしまいました。
義兄の末路
一方で、すっかり立場を失った義兄は、親戚の誰からも声をかけてもらえず、青い顔をしたまま台所に一人でこもり、寂しく大量の皿を洗う羽目になったのです。
あの事件以来、義兄が私に意見してくることは二度となくなりました。今では義母が私の最大の理解者であり、帰省するたびに二人で美味しいお酒を酌み交わすのが、私の密かな楽しみになっています。
【体験者:50代・女性会社員、回答時期:2026年4月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:北山 奈緒
企業で経理・総務として勤務。育休をきっかけに、女性のライフステージと社会生活のバランスに興味関心を持ち、ライター活動を開始。スポーツ、育児、ライフスタイルが得意テーマ。