いつもと変わらない歯科診療
その日馬場さんは、昔入れた金歯の下に虫歯ができてしまったとのことで来院。担当の先生が、一度被せ物を外して治療する方針を説明すると、馬場さんはいつも通り穏やかにうなずきました。
外した被せ物はそのまま医院で処分するのが通常の流れです。その日も特に意識することなく、いつも通りの手順を踏んでいたのですが、まさかそれが騒動に発展するとは思いもしませんでした。
突然の「金歯騒動」勃発
処置が終わり、馬場さんは帰り支度をしながら、周りをキョロキョロと見渡していました。そして「俺の金歯はどこだ?」とスタッフに尋ねます。
被せ物を処分したことを伝えると「俺の金歯をお前が盗んだな」と声を荒げたので、その場にいた全員がびっくりしてしまいました。普段が穏やかな馬場さんだからこそ、思わず顔を見合わせてしまったほどです。
スタッフ総出の大捜索
話を聞いていると、ここ数年の金価格高騰で金歯にも相応の価値があることを馬場さんはよくご存知でした。売るつもりでいたのに、確認もなく処分されてしまったのですから、馬場さんが怒られるのも無理はありません。私たちが事前に一言確認していれば、防げた騒動でした。
反省しながらも、まずは金歯を探し出すことが先決です。院内は一気に騒然となり、スタッフ全員でゴミ箱をひっくり返し、処置室の隅々まで探し回りました。院内が慌ただしくなること数分、無事に金歯が見つかったときには、全員から思わず安堵のため息が漏れたのを覚えています。
騒動のあとの教訓
この出来事をきっかけに、医院では被せ物を素材に問わず必ず患者さんに確認してから処分するルールに変更しました。当たり前のようで、できていなかった確認のひと手間。馬場さんの一件が、私たちに大切なことを気づかせてくれました。
後日、馬場さんが来院された際に「この間は悪かったね」と、高級なデパートのお菓子を差し入れしてくれました。金歯は「いい値段で売れた」と嬉しそうに話す馬場さんの顔を見て、なんだかこちらまでほっこりした気持ちになったのを覚えています。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2026年5月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:逢坂 ゆな
ライター業をしながら、実は現役の保育士でもある。その実体験を元にしたエピソードをSNS発信すると好評を得て、執筆者としても活躍するように。幼稚園教諭や歯科受付などの、多彩な職業も経験。読者からの共感の声やお悩み相談、体験談が届き、それらも元に執筆中。育児エピソードや義母・夫とのバトルなど、ママ世代から共感を呼ぶリアルな体験記事が人気。"