「5ヶ月になれば楽になる」と信じていた
私は学生時代から働いていたアパレルショップにそのまま就職し、長く同じ店で働いていました。そんな中、結婚を経て妊娠が発覚。 もともと仕事が好きだったこともあり、「できる限りギリギリまで働きたい」と考えていました。
しかし、妊娠初期からつわりが始まりました。とはいえ、何度も吐くタイプではありません。私はいわゆる食べづわりタイプで、常に何か口にしていないと強い吐き気に襲われる状態。さらに、立ちくらみや唾液が止まらず出てくるなどの、地味だけれど確実に体力と精神を削る症状もありました。
安定期に入れば楽になる。そう信じて騙し騙し働いていました。ですが、5ヶ月を過ぎても症状はほとんど変わりませんでした。毎日吐いて入院するような重症の人に比べれば軽いのかもしれない。それでも、私にとっては十分すぎるほど辛い毎日だったのです。
お腹の張りと、限界の体
アパレルショップの仕事は、想像以上に体力仕事です。長時間の立ち仕事に加え、棚の下にあるストックを取るため、何度もしゃがむ動作があります。妊娠5ヶ月を過ぎ、お腹が少しずつ大きくなってきた頃から、頻繁にお腹の張りを感じるようになりました。
立っているだけでしんどい。 それでも人手不足の中、迷惑をかけたくない一心で働き続けていました。しかし、ついに産院でこう言われました。「少し切迫早産気味ですね」無理を続ければ危険な状態になる可能性もある。そう説明を受け「働き方を変えないといけないかもしれない」と考えました。
そして店長に相談することに。店長は40代の独身女性。 妊娠経験はありませんでしたが、同性でもあり、きっと理解してくれるだろうと思っていました。私は現状を伝え、可能なら出勤日数を少し減らせないか相談しました。ですが、その返答は予想を遥かに超えるものだったのです。
「酔い止めとかないの?」店長の衝撃発言
話を聞いた店長は、不思議そうな顔をしながらこう言いました。「前に一緒に働いてたスタッフさんは、全然つわり平気そうだったよ? なんか吐き気を抑える薬とかないのー? 車の酔い止めとかもあるじゃん」と言ったのです。
さらに店長は、「切迫早産? ってやつもよくわからないけど、早く生まれるかもってだけで、流産するわけじゃないんだよね?」とまで言ったのです。もちろん、妊娠経験がない以上、知識がないのは仕方のない部分もあります。ですが、命に関わる可能性もある話をあまりにも軽く扱うような言い方に、強いショックを受けました。
店長としては、「そんなことで仕事を辞めるのはもったいない」 「キャリアを優先した方がいい」という考えだったようです。決して悪意100%ではなく、店長なりの価値観での“励まし”だったのかもしれません。
ですが、その瞬間、すぐに退職しようと心に決めました。子供ができた私は、店長のように自分軸で物事を考えることはできなかったのです。
何を大切にするかは人それぞれ
その後、病院で診断書を書いてもらい、予定よりかなり早く退職することに。店長は最後まで、「本当にそこまでしなきゃダメなの?」というような納得していない様子でした。
後日、出産経験のある主婦スタッフさんが店長に「つわりの重さは人それぞれですよ」と説明してくれていたことを知りました。「人それぞれって言っても、あんまり納得してなかったけどね……」と苦笑いでしたが……
妊娠や出産は、経験しなければ分からないことも多いものです。だからこそ、“知らない”ならせめて、軽く扱わないこと。今でも、あの時の出来事を通してそう強く感じています。
【体験者:20代・女性販売員、回答時期:2018年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:タカダ ミオ
ファッション専攻の後、アパレル接客の道へ。接客指導やメンターも行っていたアパレル時代の経験を、今度は同じように悩む誰かに届けたいとライターに転身。現在は育児と仕事を両立しながら、長年ファッション業界にいた自身のストーリーや、同年代の同業者、仕事と家庭の両立に頑張るママにインタビューしたエピソードを執筆する。