私が調剤薬局で働いていた頃の話です。バタバタしていた店内がふと落ち着いたとき、ひとりの女性客が長い間待合室に座っていることに気づきました。「何かお待ちでしょうか?」と声をかけると、その女性は「休んでるだけなのに、なんなの!?」と激怒してしまい……!?

落ち着いた店内で

私が働いていた薬局は比較的大きな店舗で、処方薬の受け取りだけでなく、日用品や市販薬を求めて来店する方も多い場所でした。ドライブスルーの対応もあり、電話もひっきりなしに鳴ります。常にどこかバタバタしているような職場でした。

ある日、ふと店内が落ち着いたタイミングがありました。なんとなく待合室に目を向けると、40代くらいの女性がひとり、椅子に座っているのに気づきました。

声をかけた理由

その方の処方箋を受け付けた記憶はなく、番号札を持っている様子もありません。周りのスタッフに聞いてみると、「あの人、結構前からいるよ」とのこと。(もしかして、こちらの確認漏れで薬を待っている?)(それとも、商品について聞きたいけどタイミングを見てるのかな……)

もしそうなら失礼になってしまうと思い、他のスタッフとも話して、念のため声をかけておこうということになりました。私はそっと近づき、できるだけ柔らかく声をかけました。「何かお待ちでしたでしょうか?」

女性客の思いがけない反応

すると、その女性は突然顔を上げて、私に向かって強い口調で言いました。「は? 散歩してて疲れたから休んでるだけだけど!?」「何なの!? 座ったらダメなわけ!?」

思ってもみない反応に、私は頭が真っ白になりました。薬局に用事があるのではなく、ただ座っていただけのようです。私は慌てて「いえ、そうではなくて……失礼しました」と頭を下げましたが、女性の怒りは収まらず、さらに声を荒げました。

「感じ悪いわね!」「ちょっと座ってただけで、そんな言われ方されるの!?」その声に、店内の空気が一気にざわつきます。周りのスタッフも、他の患者さんに気を配りながら様子を見ていました。どう対応すればいいのか分からず、私はその場に立ち尽くしてしまいました。

その場にいた男性のひとこと

そのとき、薬を受け取り終えた60代くらいの男性が、帰り際にその女性に向かってぽつりと言ったのです。「休憩したいなら、『ここで休ませてもらっていい?』って、自分から聞けばよかったのに」

振り向いた女性に、男性は続けます。「薬局に用事ないなら、そっちが先に言わんといかん立場やろ?」女性は言葉に詰まり、数秒黙ったあと「もういい!」と吐き捨て、そのまま外へ出ていきました。

より慎重になった接客

嵐のような時間が過ぎ、店内には少しだけ気まずい静けさが残りましたが、すぐに何事もなかったかのように業務は再開されました。ほんのひとことの確認が、あそこまで大きな反応になることもあるのだと学びました。その日から、私はより接客に慎重になった気がします。

どう対応すればいいのか分からず立ち尽くしていた私は、あの男性の言葉に思いがけず救ってもらったのでした。

【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2022年3月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。