小学校の入学準備
息子が小学校入学を目前に控えた3月のことです。制服や文房具を買いそろえ、一つ一つに名前を書く日々が始まりました。
我が家は共働きですが、ほとんどの入学準備は私の役目。夫・トオル(仮名・40代男性)に頼んでも「俺は苦手分野だからムリ」と拒否され続けていました。
私だってフルタイム勤務で、そもそも得意なわけではありません。それでも、親である以上やるしかない。休日を使って少しずつ名付け作業を進めます。
算数セットの試練
最大の難関は、算数セットでした。計算カードや小さなおはじきに、一つずつピンセットで名前シールを貼っていきます。その日もソファでくつろぐ夫を横目に、私は黙々と手を動かしていました。そんなとき、義母から「近くにいるから寄ってもいい?」と連絡が入りました。
やがて来た義母は、テーブルに広がる算数セットとソファで寝ころぶ夫を交互に見て、状況を察します。義母が「トオルもやりなさいよ」と声をかけても、夫はいつもの調子で「俺、そういうの苦手だから」としか応えません。
苦手をふりかざして逃げてるだけ
この言葉が義母の怒りを買いました。「苦手とか言ってんじゃないわよ! 得手不得手の問題じゃないの!『やる』か『やらない』かでしょうが!」
突然の怒声にはみんなびっくり。息子は怯えるかと思いきや「……おばあちゃん、かっこいい」とぽつり。夫はポカンと口を開けて黙り込みます。その後、観念したかのようにイスに座って手を動かし始めました。
そのまま義母は夫に名付けを命じ、私と息子を連れてカフェへ。帰宅後は、きちんとできているか最終チェックまで手伝ってくれました。
鬼の面をかぶったヒーロー
夫には私が何度も言うより、義母の一喝のほうがよっぽど効果的だったようです。
「なんかあったらまた教えて。鬼の面かぶって来るからね」そう言って帰っていく義母の背中は、鬼というより、頼もしいヒーローのように見えました。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2026年3月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:S.Takechi
調剤薬局に10年以上勤務。また小売業での接客職も経験。それらを通じて、多くの人の喜怒哀楽に触れ、そのコラム執筆からライター活動をスタート。現在は、様々な市井の人にインタビューし、情報を収集。リアルな実体験をもとにしたコラムを執筆中。