「子どもまだ?」が始まるとき
それは、親戚が集まった法事の席での出来事でした。久しぶりに顔を合わせる人たちが集まり、表向きは穏やかな空気が流れていました。けれど、こうした場では決まって踏み込まれる話題がある。そんな予感も、どこかにありました。
その場でもいつも通り穏やかに振る舞っていましたが、内心では少しだけ身構えていました。
正しさが人を傷つける瞬間
そんな中、予想は的中。親戚たちは遠慮なく踏み込んできました。「子どもまだなの?」「早くしないと大変よ」そのとき、不妊治療の最中でした。しかし事情を知らない親戚たちは、さらに言葉を重ねます。
「仕事なんてしてないで、ちゃんと家庭に入らないと」と軽い調子の「正論」。けれど、その一つひとつが確実に突き刺さってきました。場の空気もあり笑って流すしかありませんでしたが、内心では一言ごとに重さが積み重なっていきました。
その場を救った、義母のひと言
そのとき、義母がふっと笑って口を開きました。「じゃあ皆さん、責任取ってくれるんですか?」一同が「え?」と固まる中、義母はあくまで柔らかな口調のまま続けます。「人の人生にそこまで口出しするなら、何かあったときも全部面倒見てくれるの?」
返せる人は誰もいません。「違うなら、好き勝手言うのはやめましょう」その一言で、場の空気がぴたりと止まりました。
ようやく息ができた、その一言
そして義母は、少しだけ表情をやわらげて続けました。「夫婦ふたりでも、十分楽しく生きていけるのよ。人生はそれぞれなんだから」その言葉を聞いたとき、私はようやく息ができた気がしました。
笑ってやり過ごすしかなかった自分を、代わりに守ってくれた存在。あのときの言葉は、今でも忘れられないまま、心に残り続けています。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:miki.N
医療事務として7年間勤務。患者さんに日々向き合う中で、今度は言葉で人々を元気づけたいと出版社に転職。悩んでいた時に、ある記事に救われたことをきっかけに、「誰かの心に響く文章を書きたい」とライターの道へ進む。専門分野は、インタビューや旅、食、ファッション。