つわりがつらかった頃
私が第一子を妊娠していた頃のことです。妊娠初期はつわりの症状が重く、体調が安定しない日が多くありました。
会社には事情を説明していて、体調が悪いときは席を外したり、少し休憩を挟ませてもらったりしていました。周りの人たちも理解してくれていましたが、それでも(迷惑をかけているかもしれない……)という気持ちはありました。
冗談のつもりの同期
ある日、同期の男性社員・笹野くん(仮名)が、何気ない調子で私に向かって言いました。「つわりって、二日酔いの気持ち悪さと同じ感じなんでしょ?」思いがけないその言葉に戸惑っていると、笑いながら続けて言います。「俺も二日酔いのとき休めたらいいのにな〜」
笹野くんはきっと冗談のつもりです。でも、その場にいた人たちも反応に困ったような空気になりました。私は(そういうものじゃないんだけど……)と思いながらも、どう返せばいいのか分からず黙ってしまいました。
日頃からつわりで配慮してもらっているという後ろめたさも、どこかで感じていたのだと思います。
上司のフォロー「私のときは」
そのとき、先輩ママでもある上司が静かに口を開きました。「私が妊娠してたときはね、トイレと仕事のデスクを往復してたよ」そして少しだけ笑いながら続けます。「二日酔いで出社したことはないけどね」と。
その言葉に、周りから小さく笑いが起こりました。さらに上司は、笹野くんに向かってさらりとこう言いました。「つわりは本人の意思じゃないから。でも二日酔いは『計画的に』お願いね」
空気が和らいだ瞬間
その場の空気は、一気に和らぎました。笹野くんも少し気まずそうに、「はい……」と苦笑いしています。強く叱るわけでもなく、それでいてきちんと違いを伝える上司の言葉。私はすっと肩の力が抜けたような気がしました。
あのときのやり取りは、今でも職場でふと話題に出ることがあります。小さな出来事ですが、私にとっては今でも印象に残っている、救われた言葉でした。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。