探し物は焦れば焦るほど見つからないもの。一度深呼吸をして、探し直してみるとすぐに見つかった、という経験は誰しもあるのではないでしょうか。逆に何時間探しても見つからないこともあります。ましてやそれが広大な河川敷だとしたら……今回は、私の友人の、探し物にまつわるエピソードをご紹介します。
散歩中に
ある日、犬の散歩で河川敷を歩いていると、小学生低学年くらいの男の子が半べそをかきながら何かを探していました。「どうしたの?」と声をかけると「落とし物が見つからない」と言います。
探し物は
「何を落としたの? 一緒に探そうか?」と尋ねると「ありがとう、一緒に探して」と答える少年。再度「で、何を落としたの?」と聞くと「は」と返ってきました。「は? 葉っぱ?」と聞き返すと「違うよ、歯だよ」とイーっと口を開けて見せる少年。前歯が一本なくなっていました。
「歯を探してるの?! ここで?」と驚きつつ、雑草が生い茂る広大な河川敷を見渡し、これはほぼ不可能だと感じました。それでも必死な少年を見捨てられず「20分くらいなら付き合うよ!」と一緒に探すことに。
「なくしたら殺される」
少年は「なくしたら殺される……」と呟きながら必死に探しています。私は(殺す? 虐待? 事件……?と不安になり、「なんでなくしたら殺されちゃうの?」と尋ねました。少年は「ひとつ3万円くらいするから」と返答。(歯1本で3万円? どういうこと?)と混乱する私。
「ピンクとか赤なら見つけやすいんだけどね」と呟くと「ケースはピンクだよ!」と少年。どうやら抜けた歯を入れるケースがあるらしい、と考えながら、予定時間を大幅に超えて探し続けました。
しかし日が暮れ始め、視界も悪くなり、とうとう少年は泣きながら捜索を断念。「ありがとうございました」と深々と頭を下げた瞬間、ロックしていなかったランドセルの中身が全部飛び出しました。
探していたものは
一緒に散乱した荷物を拾い集めていると、少年が「あー! あったー!」と叫びました。手に握られていたのはピンク色のケース。中を開けると入っていたのは乳歯ではなく、マウスピース。「良かったー! これで怒られない!」と安堵する少年。
話を聞くと、姉が矯正用のマウスピースを使っていて、それを届ける途中で失くしたと思い込んでいたのだとか。3万円というのは、マウスピースを紛失した際の費用でした。私はてっきり乳歯を探しているのだと思っていましたが、実際には姉の大事なマウスピースだったのです。
無事見つかり、泣き顔から笑顔に変わった少年。その前歯の一本抜けた笑顔はとてもまぶしいものでした。乳歯を探していると信じて疑わなかったけれど、実際はマウスピースだった。思い込みがいかに人を惑わせるかを実感した出来事でした。
【体験者:40代・パート勤務、回答時期:2026年3月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:桜井ひなの
大学卒業後、金融機関に勤務した後は、結婚を機にアメリカに移住。ベビーシッター、ペットシッター、日本語講師、ワックス脱毛サロンなど主に接客領域で多用な仕事を経験。現地での出産・育児を経て現在は三児の母として育児に奮闘しながら、執筆活動を行う。海外での仕事、出産、育児の体験。様々な文化・価値観が交錯する米国での経験を糧に、今を生きる女性へのアドバイスとなる記事を執筆中。日本でもサロンに勤務しており、日々接客する中で情報リサーチ中。