人気の惣菜店へクレームが!
私が働くデパ地下のお惣菜屋さんは、家庭的な味が評判で、常連のお客さんも多い人気店です。私自身も、勤務が終わるとつい買って帰ってしまうほど、このお店の味が好きでした。
ある日の午後のことです。60代くらいの女性が、早足でカウンターへやってきました。表情は明らかに不機嫌です。そして私と目が合うなり「朝買ったコロッケがおいしくなかったの!」「返金してもらえる!?」と。
思いがけないクレームに、私は一瞬言葉を失いました。『おいしくなかったから返金して』という申し出は、これまで受けたことがなかったからです。
お客さんの言葉に戸惑う私
とっさに私は、「お客様、あの……商品はお持ちですか?」と確認しました。すると女性は、少し苛立った様子で言いました。「ないわよ! 食べたんだから!」
(え? 全部食べたんだ……)私は戸惑ってしまいました。商品自体に問題があったのかどうか確認しようがなく、対応に悩んでしまったのです。
ちょうどそのとき、席を外していた店長が戻ってきました。私が急いで事情を説明すると、店長は落ち着いた様子で女性に向き直ります。
店長の機転が利いたひとこと
店長は女性に穏やかな声で言いました。「お客様。商品はお持ちではないんですね……」「では、最後まで召し上がっていただけるほどのお味ではあった、という理解でよろしいでしょうか?」
女性は一瞬キョトンとした顔になり、「……まあ、食べられないほどじゃなかったけど」とぽつり。すると店長はにこやかに「貴重なご意見ありがとうございます」と一礼しました。女性は数秒沈黙したあと、「もう買わないからね!」と捨て台詞を残し、店を出ていきました。
丁寧な事実確認で
店内に静けさが戻り、私は思わず小さく息を吐きました。店長は感情的に反論するわけでもなく、ただ事実を丁寧に確認しただけ。それでも、あの場の空気はきれいに収まりました。
あの日以来、私はクレーム対応への怖さが少し減った気がしています。店長のひとことは、まさに『お手本』のような対応でした。
【体験者:30代・パート、回答時期:2025年11月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。