薬局での栄養相談
私が調剤薬局で働いていた頃の話です。私は管理栄養士として勤務していて、患者さんから食事や栄養について相談を受けることもよくありました。
ある日、60代の男性患者・戸田さん(仮名)が処方箋を出すなり、私を指さして言いました。「ちょっとあんた! 食品のこと詳しいやろ!?」なかなかの勢いに、私は思わず身構えてしまいます。
予想外の相談内容
戸田さんは続けて言いました。「病院の中のコンビニでな、いつもバナナ買うんやけど……2日も経てばすぐ腐るんよ!」「黒い点が出てくるやろ? あれは絶対おかしい!」
どうやら戸田さんは、その『黒い点』が出るたびに「バナナが腐っている」と思っていたようでした。「そろそろコンビニに言おうかと思ってる」と、本気の表情です。
私は「その黒い点って、小さくてポツポツしたやつですか?」と確認しました。「そうそう、それ!」と戸田さんは頷きます。
『腐ったバナナ』の真相は……
私は戸田さんが勘違いしていることを察して、笑いをこらえながら説明しました。「あれは……『シュガースポット』って言って、バナナが甘くなってきたサインなんですよ」「腐っているわけじゃなくて、むしろ食べ頃なんです!」
戸田さんは腕を組んで、しばらく沈黙しています。そして「……ええ? 本当に?」と疑うような表情です。私は「本当です。むしろそのときが一番甘いです」と自信を持って伝え、「黒い点が出たときに一度食べてみてください!」とお願いしました。
結局その日は、戸田さんは半信半疑のまま帰っていきました。
数日後の電話
数日後、戸田さんから薬局に電話がかかってきました。私が出るなり、勢いよく話し出す戸田さん。「あんたの言う通りバナナ食べてみたわ。あれ、めちゃくちゃ甘いやん!」「今まで何本捨ててたんやろな!」電話の向こうで、なんだか楽しそうに笑っています。
コンビニへのクレーム寸前だったバナナは、ただの『食べ頃』でした。栄養相談のはずが、まさかのバナナ誤解事件。あの日の戸田さんとの会話は、今でも思い出すたびに少し笑ってしまうエピソードです。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2022年1月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。