“良い常連さん”からの愛情たっぷりの差し入れ。けれども善意ゆえに、断れない苦しさがありました。思いやりと押し付けのバランスや、親切の本当の意味を考えさせられる、友人が働くカフェでの出来事です。

にこやかな常連女性

私が働くカフェに、ほぼ毎日来店する60代の女性客がいました。「いつも応援してるのよ。みんな孫みたいでかわいくて」とにこやかに話す、いわゆる“良い常連さん”です。

ある日、「みんなで食べて」と手作りのお弁当を差し入れしてくれました。唐揚げや煮物がぎっしり詰まった、愛情たっぷりの内容でした。

善意ゆえの葛藤

しかし飲食店という立場上、衛生管理の観点から手作りの差し入れは口にできない決まりがあります。感謝を伝えつつもスタッフは困惑。やんわり断ろうとすると、善意を否定された気になるようで、「せっかく作ったのに」「気持ちを無駄にするの?」と責められました。

その後も週に数回、手作り惣菜やお菓子を持参。食べられず処分するたびに罪悪感を抱き、女性はSNSに「今日も若い子たちにごはん作ってあげた」と投稿していたため、店としても強く言いづらい空気がありました。

店長の決断

ある日、ついに店長が意を決して説明しました。「お気持ちは本当にありがたいのですが、規定で手作りの物は受け取れません。スタッフを守るためでもあるんです」と丁寧に頭を下げます。

女性は一瞬むっとした表情を見せましたが、周囲の視線もあり「そうなのね……知らなかったわ」と小さく引き下がりました。

本当の思いやりとは

それ以降、差し入れは手作りから市販のお菓子に変更されました。スタッフはようやく心から笑顔で「ありがとうございます」と言えるようになりました。

「相手に悪気がなく親切心でやってくれていた分、いちばん難しい状況」だったと感じます。応援の気持ちはありがたいものですが、本当の思いやりとは、相手の立場や事情まで想像することなのだと実感した出来事でした。

【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2021年8月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:Rio.K
大学卒業後、保険会社で営業関係に勤務。その後は、エンタメ業界での就業を経て現在はライターとして活動。保険業界で多くの人と出会った経験、エンタメ業界で触れたユニークな経験などを起点に、現在も当時の人脈からの取材を行いながら職場での人間関係をテーマにコラムを執筆中。