娘の大事なメガネ
私の4歳の娘は、生まれつき乱視がありメガネをかけています。最初はかけるのを嫌がったり、慣れるまでに時間がかかりましたが、今ではすっかりお気に入りです。自分で選んだ好きな色のフレームで、毎朝うれしそうにかけています。
私にとっても、メガネは娘の目がよく見えるための『大事な相棒』のような存在に思っていました。
エレベーターでのひとこと
ある日、娘とふたりでショッピングモールのエレベーターに乗ったときのことです。一緒に乗り合わせたのは、小学生くらいの男の子と、その祖母らしき女性でした。女性は娘の顔を見るなり、少し驚いたように言いました。
「あら、メガネなの?」「まだ小さいのに、かわいそうに……」その言葉に、胸がチクリとしました。さらに女性は、「小さいうちから大変ねぇ」「かわいそうねぇ」と繰り返します。
娘はきょとんとした顔でそのやり取りを聞いていました。私はどう返すべきか迷い、言葉が出てきませんでした。
男の子の素直な疑問
そのとき、隣に立っていた男の子が首を傾げて言いました。「なんでかわいそうなの?」女性が「まだ小さいからよ」と答えると、男の子はすぐに、「ばあちゃんだって老眼鏡かけてるじゃん」と返します。女性が「それは違うわよ〜」と少し困ったように言うと、男の子は当然のように続けました。「見えないと困るじゃん。見えた方がいいでしょ?」
エレベーターの中に、ほんの一瞬、静かな空気が流れました。女性は「あらまあ……」と小さく笑い、それ以上何も言いませんでした。
まっすぐな言葉で
エレベーターを降りるとき、男の子は娘のメガネを見て「かっこいいね!」と言ってくれました。そのひとことで、私の胸の奥にあったわだかまりがすっと消えていきました。娘も照れくさそうに笑っています。
メガネは、子どもがかけていても『かわいそうなもの』ではありません。よく見えて、安全に、快適に過ごすためのとても大事な道具です。あの日、男の子のまっすぐな言葉が、私の心に引っかかっていたものをやわらかくほどいてくれました。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2026年1月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。