お薬の知識ゼロ
調剤薬局で事務の仕事をしています。入社当初のわたしは、お薬についての知識がほとんどありませんでした。
ある日、受付を任されたときのことです。年配の男性・堀口さん(仮名・70代)が、飲み切れずに余ったお薬を持参されました。渡された袋を確認すると、ひとつだけ多めに残っているものがあります。
何気ないひとこと
「これ、結構残ってますね」と声をかけると、堀口さんからは「効きが良すぎて、自分で割って調節してんのよ」と、あっさりめの返事が。「そうなんですね~」と、わたしは深く考えずに相づちを打ちました。
すると薬剤師の岡さん(仮名・30代女性)が対応を終え、こちらに笑顔で駆け寄ってきてくれたので、そのまま引き継ぐことにしました。
自己判断ダメ、ゼッタイ
「このお薬、自分で割って調節されているそうです」と状況を伝えた瞬間、彼女のまとっていた柔らかな空気が、ピリッ! とひりついたのを感じました。
「あれ、わたし、何か変なこといったかな……?」と、内心ハラハラ状態に。岡さんはすぐに空気を戻し、堀口さんにヒアリングを始めます。
実は、お薬の中には「割ったり潰したりしてはいけない薬」があります。形を変えることで、効き目が変わる恐れがあるからです。堀口さんが自己判断で割っていたのは、まさにそのタイプのお薬。結局、処方元に連絡してお薬の種類を変えてもらうことになりました。
お薬の奥深さ
薬局で働く前のわたしは、お薬なんて「錠剤・粉・シロップ」くらいの認識しかありませんでした。しかし実際は、錠剤ひとつとっても細やかな工夫が詰め込まれています。例えば水なしで飲めたり、糖でコーティングされていたり。飲む人の快適さと、薬の効果が正しく発揮されるための技術の結晶のようです。
たかがお薬、されどお薬。小さな一粒に込められた設計の奥深さを知りました。それと同時に「患者さんのひとことを見逃さないための知識をつけたい」と強く意識した出来事でした。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2015年1月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:S.Takechi
調剤薬局に10年以上勤務。また小売業での接客職も経験。それらを通じて、多くの人の喜怒哀楽に触れ、そのコラム執筆からライター活動をスタート。現在は、様々な市井の人にインタビューし、情報を収集。リアルな実体験をもとにしたコラムを執筆中。