止まらない「食い尽くし」
私の夫は、とにかく目の前にある食べ物を食べ尽くしてしまうタイプでした。たとえば、私が外出先で偶然見つけたパン屋さんで家族分のパンを買って帰っても、「ひとりひとつ」ときつく伝えてあるにもかかわらず、気づけばほとんどなくなっていることも。
その他にも、子どもの誕生日に用意したホールケーキも、取り分ける前に半分以上食べてしまったことがありました。極めつきは友人家族とのBBQ。目を離した隙に、網の上の食材がほとんどなくなっていたのです。その場の空気が凍りつき、私は心底恥ずかしい思いをしました。それ以来、BBQは怖くてできていません。
何度も叱り、何度も説明してきました。それでも「悪気はない」「無意識だった」と言われるばかりで、根本的な改善には至っていませんでした。
三人育児と、命綱の冷凍ストック
そんな中、三人目の子どもが誕生。上の子ふたりをみながらの新生児育児は想像以上に大変で、私は毎日へとへとでした。寝る時間を削りながら家事と育児を回す日々。
やがて始まった離乳食。最初の頃は、すべての食材をペースト状にしなければなりません。10倍がゆ、にんじん、ほうれんそう、玉ねぎ、トマト……。少しでも自分の負担を減らそうと、一気に作って製氷器に詰め、冷凍ストックを用意しました。
大袈裟かもしれませんが、それは忙しい毎日をなんとか乗り切るための「命綱」のような存在だったのです。
消えた離乳食、そして涙
ある日、いつものように冷凍庫を開けた私は目を疑いました。離乳食のストックが、ひとつもないのです! 胸騒ぎを覚えながら、夫に確認しました。「ねぇ……まさか、ここにあった離乳食のストック、食べてないよね?」返ってきたのは、想像を超える答えでした。
「最近ご飯も大変そうだったし、俺カレー作ったんだよ。野菜切るの面倒だったから、あれ使った」しかも、そのカレーは家族の分はなく、夫ひとりで完食。さらに、ストックしていたカレールーも一箱すべて使い切っていたのです。
その瞬間、私の中で何かが崩れました。怒鳴る気力もなく、ただ涙がぽろぽろとこぼれ落ちてきたのです。
初めて気づいた「重大さ」
突然泣き出した私を見て、夫は動揺。「どうしたの? なんでそんなに泣いてるの?」私は声を絞り出して、ぽつりぽつりと伝えました。あれは赤ちゃんの離乳食だったこと。寝る時間もない中、少しでも楽をするために必死で作ったストックだったこと。
……後日、夫はこう振り返りました。「本気でショックを受けているのが伝わって、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。自分が大変なことをしてしまったと初めて気づいた」と。それ以来、すぐに完璧とはいかなくても、意識して食べる前に確認するようになり、以前よりはかなり改善が見られるようになりました。
当時は、離乳食まで食べられてしまい、本気で離婚が頭をよぎりました。けれど、自分の行動を省みて変わろうと努力する姿を見て、今ではあの時のことも「結果オーライだったのかもしれない」と思っています。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2020年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Mio.T
ファッション専攻の後、アパレル接客の道へ。接客指導やメンターも行っていたアパレル時代の経験を、今度は同じように悩む誰かに届けたいとライターに転身。現在は育児と仕事を両立しながら、長年ファッション業界にいた自身のストーリーや、同年代の同業者、仕事と家庭の両立に頑張るママにインタビューしたエピソードを執筆する。