のほほんママと、やんちゃ盛りの兄妹
私が仲良くなったのは、40代半ばくらいのたえこちゃん(仮名)。5歳のお兄ちゃんと3歳の妹を育てるママでした。兄妹は元気いっぱい。けれど正直に言えば、少し目に余る場面もありました。
ショッピングセンターのゲームコーナーで親の姿が見えないまま走り回ったり、順番待ちの列に割り込んだり。お兄ちゃんが他のお友達のおもちゃを取り上げても、たえこちゃんは遠くから「こら〜ダメだよ〜」と声をかけるだけで、そばに行って止めることはありませんでした。
本人はいつものんびりとした様子で、他のママが「最近イヤイヤ期が大変で」と子育ての愚痴をこぼせば「えー? なんで大変なの? かわいいだけじゃん〜」と明るく返すことも。悪気はないのだろうけれど、周囲との温度差は確実に広がっていったそうです。
「それは危ないよ」……他のママからの静かな注意
ある日、支援センターでの出来事です。兄妹が走り回り、妹が他の子のブロックを勢いよく払いのけてしまいました。さらにお兄ちゃんが小さな子の背中を押してしまい、その子がよろけます。それを見た一人のママが、しゃがんで目線を合わせ、穏やかな声で言いました。
「走るとぶつかっちゃうよ。ここは小さい子もいるから、歩こうね」「押したらびっくりしちゃうよ。ごめんね、って言えるかな?」声を荒げることもなく、子どもの肩にそっと手を添え、ゆっくりと言葉を選びながらの注意でした。周囲が見ていても「過剰」とは思えない、ごく自然な声かけだったそうです。
ところがその直後、たえこちゃんが険しい顔で近づき、「うちの子を叱らないで!!」と強い口調で言い放ったのです。
繰り返される衝突、そして孤立
翌日から、たえこちゃんはそのママとお子さんをあからさまに避けるようになりました。しかし兄妹の行動は変わらないため、別のママが同じように穏やかに注意をします。「順番だよ。並ぼうね」「おもちゃは貸してって言ってからにしようね」それでも、たえこちゃんは「うちの子は悪くない」と言わんばかりに相手を睨み、きつい言葉を返したそうです。
当然ながら、少しずつ周囲は距離を置くようになりました。気づけば、隣に座る人も、話しかける人もいません。それでも本人は理由がわからなかったようで、ある日、支援センターの年配の先生に涙ながらに訴えました。「なんでみんな私に冷たくするの?」
先生は静かに、しかしはっきりと言ったそうです。「子どもが悪いことをして注意されたときに、あなたが怒るからですよ。そんなことをしていたら、誰も一緒に遊びたいとは思わないでしょう」その言葉は、言い訳しようもない、逃げ場のない真実でした。
「ごめんね」から始まった変化
その日を境に、たえこちゃんは変わりました。私のところにやってきて、「私、間違ってた」と自分から話してくれたのです。次に支援センターへ来たとき、兄妹が走り出すとすぐに追いかけ、目線を合わせて言いました。「ここは歩こうね」「押したら痛いよ。どうするんだっけ?」お兄ちゃんが小さな声で「ごめんね」と言えたときは、隣で深く頭を下げていました。
以前注意してくれたママにも、「あのときはごめんなさい」と自分から声をかけたそうです。完璧ではないけれど、子どもと一緒に変わろうとする姿勢が伝わるようになりました。すると少しずつ、周囲の表情もやわらいでいったのです。
たえこちゃんは、少し不器用だっただけで、決して意地悪な人ではありませんでした。今でも不器用なところはあるたえこちゃんですが、私は変わらず付き合いを続けています。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2020年12月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Mio.T
ファッション専攻の後、アパレル接客の道へ。接客指導やメンターも行っていたアパレル時代の経験を、今度は同じように悩む誰かに届けたいとライターに転身。現在は育児と仕事を両立しながら、長年ファッション業界にいた自身のストーリーや、同年代の同業者、仕事と家庭の両立に頑張るママにインタビューしたエピソードを執筆する。