オフィスに漂う場違いな匂い……。匂いの主にさりげなく注意したつもりが、「ダメな理由は?」と問い返されることに。今回は、コールセンターでスーパーバイザーとして働く知人の聡美さん(仮名)が直面した「当たり前」で片付けられない「職場のルール」についてのエピソードをご紹介します。

オフィスに漂う異臭

ある日の夜、日勤と夜勤が入れ替わる時間帯のことでした。 デスクの一角で、スタッフたちが何やらざわついています。私が近づくと、スタッフの一人が顔しかめて、「なんだか……サキイカみたいな匂い、しません?」

まさか職場でサキイカなんて――。そう言いかけた瞬間、確かにあの独特の匂いが……。どうやら気のせいではなさそうです。

夜勤スタッフの「眠気覚まし」

匂いの主は、夜勤スタッフの木梨さん(仮名)でした。出勤してきたばかりの彼女が袖机から取り出したのは、大袋に入ったサキイカ。「夜勤は長いし、入電がない時間は眠くなるんです。甘い物だと太っちゃうし、これが最高だって気づいたんです」木梨さんは全く悪びれた様子もありません。

夜勤の大変さは私もよく知っています。静かな時間が続くほど、眠気はじわじわと忍び寄ってくるもの。それでも、仕事中にサキイカを噛みしめる姿には、違和感しかありませんでした。

チョコは良くて、サキイカはダメ?

「デスクでサキイカは、ちょっと……」できるだけ穏やかに伝えたつもりでしたが、木梨さんは、思いのほか強い口調で反論してきました。「じゃあ、何ならいいんですか? チョコや飴が良くて、サキイカがダメな理由って何ですか?」

その言葉に、思わず言葉を失いました。確かに、明文化されたルールがあるわけではありません。
「匂いの強いものは、ロッカーに入れておいてくれる?」そう伝えるのが精一杯だった私の胸に、木梨さんの問いかけがサキイカの匂いよりも強く残りました。

正解のない、境界線の引き方

ところが、この騒動は思わぬ方向へ広がっていきました。「夜勤はおつまみを食べながら働けるなんて、楽でいいよね」そんな声が日勤スタッフの間でささやかれ始めたのです。匂いの問題だったはずが、いつの間にか「夜勤の業務」の話にすり替わっていました。

結局、部署として「匂いの強いものは持ち込み禁止」というルールを設けることに。木梨さんはサキイカを持ち帰り、フロアからあの匂いは消えました。

多くの人が集まる職場では、時として想定外の「自分ルール」に出会うことがあります。サキイカ事件をきっかけに、「自分の当たり前」が「他人の当たり前」とは限らないということを、私は改めて考えさせられました。

【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2023年10月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:Sachiko.G 
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。