結婚披露宴は、新郎新婦のお披露目であると同時に、両家の親族が初めて一堂に会する場でもあります。そんな晴れの日に、思わぬ「価値観のズレ」が露呈することも。今回は、私の知人・穂香さん(仮名)の披露宴で、新婦側の親族を凍りつかせた義父の「衝撃サプライズ」をご紹介します。

地元のスター、義父の願い

夫の実家は、地元商店街でスーパーを経営しています。社長である義父は、自ら店頭に立ち接客もこなすパワフルな人物。商店街のカラオケ大会では常連という、ちょっとした有名人でした。

結婚が決まった当初から「披露宴では一曲歌わせてもらうぞ」と張り切っていた義父。披露宴で父親が歌うというのはあまり聞いたことがなく、私は戸惑いを覚えましたが、あまりに嬉しそうな様子に断りきれず、プログラムに組み込むことにしました。

曲目を尋ねても、「当日のお楽しみだ。音源も自分で用意するから大丈夫だ」と頑として教えてくれません。

耳を疑う衝撃のイントロ

迎えた結婚式当日。披露宴も中盤、お色直しを終えた新郎新婦が席に戻った絶好のタイミングで、いよいよ義父の出番がやってきました。司会者の紹介とともに、新郎新婦の席の近くまで歩み寄る義父。父親自らの熱唱という珍しさもあり、会場からは温かな拍手が起こりました。

しかし、スピーカーから流れ出したイントロを聞いた瞬間、私は自分の耳を疑いました。耳に馴染んだ昭和の名曲。義父が満面の笑みで、朗々と歌い出したのは新沼謙治さんの『嫁に来ないか』だったのです。

誰の歌?

「嫁に来ないか、僕のところへ……」義父の歌声は確かに見事なものでしたが、会場には、微妙な空気が流れていました。「いや、お義父さんに嫁ぐわけじゃないし……」そんなツッコミを、会場の誰もが心の中でつぶやいていたに違いありません。

特に私の親族たちの表情は悲惨そのもの。大切に育てた娘を送り出す新婦の父の前で、相手の父が「俺のところへ来い」と自信満々に歌い上げる構図。歌詞の凄まじいミスマッチに、親戚一同、完全にフリーズしていたのです。

会場の温度差

歌い終え、満足げに深々と一礼する義父。新郎側の席からは大きな拍手が起こりましたが、新婦側は引きつった笑顔のまま固まっています。会場を二分した温度差と、親族への申し訳なさに、私はいたたまれない気持ちになりました。

義父の『嫁に来ないか』は、親族付き合いにおける無自覚な価値観のズレを象徴する、忘れられない一曲となりました。夫は今でも笑い話にしていますが、私にとっては披露宴の「黒歴史」。

披露宴とは二人だけのものではなく、家族同士の文化が交差する瞬間でもあるのだと思い知ったのでした。

【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2024年2月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。