猛者たちのご褒美旅行
私が旅行会社で働いていた頃、ある企業の報奨旅行に添乗しました。参加者は、全国から集まった営業成績優秀者たち。ハワイ島からオアフ島を巡る豪華ツアーに、空港の集合場所は、すでにお祭り騒ぎのような活気に溢れていました。
私は出国前、何度も注意を呼びかけました。「機内は気圧の関係で、地上よりお酒に酔いやすくなります。米国の入国審査は厳しいので、飲みすぎには十分ご注意ください」
その説明中も、特に目立っていた佐藤さん(仮名)と水野さん(仮名)は、現地で予約しているゴルフの話に夢中。嫌な予感が胸をよぎりました。
機内で始まった「宴」
不安は、機内で現実になります。機内食が配られると同時に、佐藤さんと水野さんは、次々とアルコールを注文し始めたのです。
私は彼らの座席まで足を運び、何度も声をかけましたが、「大丈夫、大丈夫。自分の適量はわかってるから」と、自信満々の笑顔。私の不安は膨らむ一方でした。
楽園の入口で突きつけられた「NO」
ハワイ島・コナ空港に到着。乗客たちが次々と機外へ出る中、佐藤さんと水野さんは座席に埋もれたまま、立ち上がりません。揺り起こすとようやく目を開けましたが、顔は真っ赤。私は慌てて化粧室へ連れていき、「冷水で顔を洗ってください! うがいもしてください!」
しかし、戻ってきた二人からは強烈なアルコール臭。誰が見ても明らかな「酔っぱらい」でした。
入国審査官の鋭い眼光を前に、赤い顔でしどろもどろな受け答えの二人に下された判断は――入国拒否。二人は添乗員すら立ち入れない別室へと連行されていきました。
苦い思い出と教訓
残りのメンバーでの行程は、何事もなく終了。しかし、私にとって、この出来事は忘れられない苦い経験となりました。豪華ツアーを失い、片道航空券という高額な授業料を支払うことになった二人。自信満々だったあの笑顔と、別室へ消えていく時の後ろ姿が、今も目に焼きついています。
添乗員として、止めきれなかった悔しさと、もっと強く伝えるべきだったという自戒。旅の楽しさを守るためには、「嫌われ役」になる覚悟も添乗員の仕事の一部だと思い知らされました。
【体験者:60代・女性会社員、回答時期:2026年2月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。