筆者が学生時代にカフェでアルバイトしていた頃の実体験です。にぎやかな駅前の店舗で、客層もさまざま。そんななか、毎朝“接客業の先輩”を名乗るおばさまがいました。善意のアドバイスのはずが、次第に店員たちを追い詰めていき――。

開店前から始まるプレッシャー

大学時代カフェでアルバイトをしていました。大きな駅前にあり、朝7時の開店から夜23時の閉店までずっと賑わっている店舗です。私は朝シフト担当で、6時30分に入り、掃除や仕込みなどの開店準備をします。

店員の間で有名だったのが、毎朝6時40分に店のドアの前に立ち、早く開けるよう促してくるおばさま。どれだけ視線を送られても、時間を早めることはできませんでした。

「接客業の先輩」としてのご指導

定刻通りにオープンすると、必ず始まるのが“アドバイス”。「あのね、接客業の先輩としてあなたたちに教えるわ」おばさまは百貨店に40年勤め、あらゆるお客様の要望に応えてきたそう。

「私たちの時代は『お客様の言うことは絶対』だったわ。6時40分に開けてほしいと言われたら努力しないとだめ」と繰り返します。6時40分に開店するのは物理的に不可能なのに、毎日同じ話を聞かされ、店員たちは少しずつ疲弊していきました。

空気を変えた常連客

また別の日も繰り広げられていたそのやり取り。それを見ていた別の常連の男性が、にこやかに口を挟みました。「俺も毎朝来てるけど、この時間は店員さん2人で準備と接客もして大変だよ。7時まで待とうよ。客としても、店員さんに好かれる客でいたいじゃない」

おばさまは言葉に詰まり、「あ、そうね……」と小さく言って列の後ろに下がりました。それ以降、朝の“お説教”はなくなりました。

ありがた迷惑とは

おばさまの言葉は、きっと善意だったのだと思います。ただ、その善意が相手を追い詰めてしまうこともあります。

そして同時に、あの男性の一言で、サービスを受ける側であっても相手を思いやることはできるのだと知りました。どうせなら、店員に好かれるお客さんでいたい――そう思えるようになった出来事です。

【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2026年2月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:Ryoko.K
大学卒業後、保険会社で営業関係に勤務。その後は、エンタメ業界での就業を経て現在はライターとして活動。保険業界で多くの人と出会った経験、エンタメ業界で触れたユニークな経験などを起点に、現在も当時の人脈からの取材を行いながら職場での人間関係をテーマにコラムを執筆中。