いろんなお客さんがいる職場
私はコンビニでパートとして働いています。常連さんも多く、何事もなく和やかに一日が過ぎることもあれば、ときどき「少し独特だな」と感じるお客さんに出会うこともあります。その日は、特別変わったことが起きるとは思わず、私はいつも通りレジに立っていました。
レジでの『意外なお願い』
そんな中、50代くらいの男性のお客さんが店にやってきました。しばらく店内を回り商品を選んだあと、私が立っているレジの方へ向かってきます。カゴの中には、お弁当やペットボトル飲料など複数の商品が入っていました。
男性はカゴをレジ台に置くなり、少し神経質そうな様子で「それ、触らないで」「俺がバーコードをそっちに向けるから、君は読み込んで」と、はっきりした口調で言ったのです。
私は(え? 触らない……?)と一瞬戸惑いましたが、「分かりました……」と答え、男性が差し出す向きに合わせてバーコードを黙々と読み取ります。袋詰めについても「それも自分でやるから」と言い、男性はレジ前で淡々と作業をしていました。
ぽつりと聞こえた本音
会計の途中、男性は独り言のように「人に触られるの、ちょっと気になるんだよね」と小さくこぼしました。会計が終わると、男性は軽く会釈をして、そのまま店を出て行きます。レジ周りは、何事もなかったかのように静かになりました。
少し離れたところにいた同僚が私に近づいてきて、小声で「でもさ、品出しのとき、私たち普通に触ってるよね。……それはいいのかな?」と、不思議そうに言います。私は思わず「たしかに……それに、他のお客さんも手に取ってるもんね」と頷きました。
それぞれの『気になるポイント』
同僚と言葉を交わしながら、さっきの男性とのやり取りを思い返します。人によって気になるポイントは本当にさまざまで、その線引きは外からはなかなか見えないものなんだな、とぼんやり感じていました。
長く接客業をしていると、いろんなこだわりや考え方を持つお客さんと出会います。この日の出来事は、忙しい業務の合間にもふと頭に浮かび、休憩中に少し話題にのぼるような、私たちの中で印象に残る出来事となりました。
【体験者:30代・パート、回答時期:2026年1月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。