「育休を取りたい」と言ったら、職場でどう思われるんだろう。出世に響くかもしれない、迷惑をかけるかもしれない――そんな不安を抱えながら、言い出せずにいるパパは少なくありません。ある職場で、まさにその壁に直面した男性社員がいました。これは私の友人が働く会社で起こった出来事です。

制度はある。でも空気は別だった

私が働く会社では、制度上、男性も育休を取得できることになっていました。書類上は男女平等で、育休取得を制限する決まりもありません。けれど実際の職場には、はっきりと言葉にされない“線引き”がありました。育休を取っても特に問題にならないのは、いなくても仕事が回る人。

一方で、仕事ができると評価されている人ほど、育休の話題は歓迎されない空気があったのです。私はそれを、「なんとなくみんな分かっている前提」だと感じていました。口には出さないけれど、確かに存在するルールのようなものです。

「出世できなくなるぞ」という一言

そんな中、私と同じ部署で“できる社員”として知られている男性社員が、育休を取りたいと上司に相談しました。第1子の誕生に合わせ、期間は1か月。業務の引き継ぎ案も事前にまとめ、現場への影響を考えたうえでの相談でした。

話を聞いた上司は、少し考えたあとこう言いました。「正直、君が抜けると現場が回らない」そして、周囲にも聞こえる声で続けます。「育休なんか取ってたら、出世もできなくなるぞ」

冗談のような口調でしたが、フロアの空気は一瞬で凍りつきました。助言というより、将来を人質に取るような言い方に聞こえたのです。

静かな反論と、その後の変化

少しの沈黙のあと、男性社員は感情的になることなく、落ち着いた声で答えました。「出世も大切ですが、家族との時間も大切にさせてください。ご検討お願いします」それ以上、その場で話が深まることはありませんでした。上司も強く言い返すことはなく、どこか考え込んだ様子でした。

そして、その出来事から間もなくして、社内に通達が出ました。発信元は社長。「男性社員も、もっと家事・育児に参加できる環境をつくりたい」という内容で、フレックスタイム制度をより柔軟に活用していく方針が示されていました。

具体的な出来事には触れられていませんでしたが、「あの一件がきっかけでは?」と感じた社員は少なくなかったようです。

制度よりも「使っていい空気」

私は、「すぐに職場が変わるわけじゃないけど、確実に風向きは変わった」と思いました。あのときの一言は、大きな声でも、強い言葉でもありませんでした。それでも、会社の空気を少し動かす力はあったのだと思います。

制度があるだけでは足りません。それを「使っていい」と言える空気があるかどうか。この出来事は、それがどれほど大切かを考えさせられる出来事でした。

【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年10月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:北山 奈緒
企業で経理・総務として勤務。育休をきっかけに、女性のライフステージと社会生活のバランスに興味関心を持ち、ライター活動を開始。スポーツ、育児、ライフスタイルが得意テーマ。