送迎のたびに引っかかっていた言葉
幼稚園の送迎で顔を合わせるママ友のひとりに、麻美さん(仮名)という人がいます。共働きで忙しそうにしていて、会話の端々に「専業主婦って毎日なにしてるの?」「ずっと家にいるの、逆に大変そう〜」といった言葉が出ることが多い人でした。
冗談めかしてはいるもののどこか引っかかる言い方で、私は聞くたびに少し落ち着かない気持ちになっていました。
立ち話で流れた、気まずい空気
ある日の送迎後、私と麻美さん、そしてもうひとりのママ友・奈緒さん(仮名)の3人で立ち話をすることがありました。話の流れで、奈緒さんが「今は専業主婦で……」と話すと、麻美さんがすぐに
「え、退屈じゃない?」「早く働かないと、将来困っちゃうよ〜」と、いつもの調子で言います。
私は慌てて「人それぞれだよね!」とフォローしましたが、場の空気はどこか気まずくなりました。奈緒さん本人は笑って受け流していましたが、その様子を見て、私はなんとも言えない気持ちになっていました。
運動会での思いがけない出来事
しばらくして迎えた幼稚園の運動会の日。子どもたちが集合して準備している中、少し離れたところで保護者同士が挨拶を交わしていました。
そのとき、麻美さんの夫が奈緒さんの姿に気づいて足を止め、「あれ……奈緒さん? お久しぶりです!」と、深く頭を下げたのです。
話を聞くと、奈緒さんは以前、麻美さんの夫と同じ会社に勤めていて、しかも上司だったそうです。「今は育児に専念してるんだ〜」と奈緒さんは笑顔で話していました。その様子を見ていた麻美さんは、夫の横で気まずそうに黙っていました。
何も言わずに変わった状況
それ以来、麻美さんの「専業主婦って〜」という言い方を聞くことはなくなりました。特別に誰かが注意したわけでも、話し合いをしたわけでもありません。ただ、あの日をきっかけに空気が少し変わったように感じました。
見ていて良い気分のしなかったやりとりが、思わぬ形で終わったことに私はホッとしました。働き方や暮らし方は家庭それぞれで、なにが正解というものでもありません。誰かが選んだ『暮らしのカタチ』を他人が否定するものではないのだと、改めて感じた出来事でした。
【体験者:30代・パート、回答時期:2025年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。