毎日ご飯を作っているのに、「おいしい」と言われたことがない。無口な夫だから仕方ないと言い聞かせながらも、心のどこかで引っかかっていました。そんなある日、思いもよらない出来事が明らかになり、忘れられない一日の話となりました。これは、私の友人家族の体験談です。
無言が当たり前になっていた食卓
私は、仕事と家事を両立しながら、毎日家族の夕飯を作ってきました。栄養や味付け、家族それぞれの好みを考え、献立を決めて買い物をし、限られた時間で調理する日々です。
夫は食事に文句を言うことはありません。ただし、「おいしい」と言うことも一切ありませんでした。毎回黙って食べ、「ごちそうさま」とだけ言って食卓を終えます。最初は「無口な人だから仕方ない」と自分に言い聞かせていました。言葉より行動で示すタイプなのだろう、と無理に納得しようとしていたのです。
積み重なっていく虚しさ
しかし、それが毎日続くと、少しずつ虚しさが積み重なっていきました。時間をかけて作った料理の日も、忙しい中で工夫したメニューの日も、反応は同じでした。「どう?」と聞いてみても、「普通だよ」と返されるだけ。責めたいわけではありませんでしたが、評価されない気持ちが残ります。
感謝してほしいわけでも、大げさに褒めてほしいわけでもない。ただ一言、「おいしい」と言ってもらえたら、それだけで報われるのに。そんな思いを胸にしまい込みながら、私は何事もない顔で料理を続けていました。
娘のひと言で知った事実
ある日、娘が突然こう言いました。「ママ、パパのX見た?」私は普段SNSをほとんど見ないため、何のことか分かりませんでした。すると娘がスマホを持ってきて、画面を見せてくれたのです。そこには、「今日も妻のご飯がめちゃくちゃおいしい」という投稿がありました。
家では一度も言われたことのない言葉が、SNSには堂々と書かれていたのです。驚きと同時に、嬉しさ、戸惑い、そして少しの寂しさが一気に押し寄せました。「どうして、この言葉を私には言わないんだろう」そう思わずにはいられませんでした。
言葉にしない夫なりの気持ち
娘はそのまま、「なんでママには言わないの?」とパパに聞いてみると言い出しました。すると夫は少し照れた様子で、「みんなに自慢してるんだよ」と答えたそうです。
その話を聞いて、私は思わず笑ってしまいました。不器用な人なりに、ちゃんと誇りに思ってくれていたのかもしれません。無口な夫の愛情表現は、言葉ではなく、少し遠回りな形だっただけ。そう思えたことで、張りつめていた気持ちが少し緩みました。
「これからもご飯、頑張ろうかな」そう自然に思えたのは、無口なところも含めて好きだと思って結婚した気持ちを、久しぶりに思い出せたからでした。
【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2023年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:北山 奈緒
企業で経理・総務として勤務。育休をきっかけに、女性のライフステージと社会生活のバランスに興味関心を持ち、ライター活動を開始。スポーツ、育児、ライフスタイルが得意テーマ。