半人前だった新人時代
新人薬剤師だった、20代の頃の体験談です。社会人としても薬剤師としてもまだまだ半人前で、毎日必死に仕事をこなしていました。
ある日、一人の男性(20代)が市販薬を買いに来ました。その日の薬局は、外来患者がひっきりなしに訪れ、目の回るような忙しさ。お薬の準備室は、雑談をする余裕もないほどの緊張感に包まれていました。先輩薬剤師は誰も手が空かず、男性の対応は新人の私がすることになったのです。
忙しい中で任された購入対応
その男性は「〇〇を下さい」と商品名を口にします。それは、薬剤師からでないと購入できない種類のお薬でした。私にはまだ販売経験がありませんでしたが、手順は教わっていたのでヘルプを呼ばずにそのまま担当することにしました。
必要な手続きを済ませ、会計まで無事終了。笑顔で帰っていく患者さんを見送ります。忙しい空気の中、自分一人でも仕事を回せた充実感でいっぱいでした。
在庫数が、合わない
事件はその半月後に起こります。全体ミーティングで、市販薬の在庫管理者から「〇〇の薬の在庫数が帳簿と合わない」と困り顔で告げられました。帳簿上の在庫数は10箱。しかし実在庫はそれより1箱多かったのです。
私は真っ先にあの男性を思い浮かべました。「あれ? そういえば私……店頭に置いてある箱を売ったなあ……」
うっかりが招いたミス
薬剤師による販売が義務づけられている市販薬は、安全のため特に注意が必要です。そのため、店頭に実物は置きません。私の店舗では、代わりに空箱の見本品を置くようにしていました。私はそのことを忘れ、うっかり見本品をそのまま販売してしまったのです。
幸いにも、販売記録には連絡先を控えていました。すぐに電話をかけ、後日交換の運びに。男性も買ってすぐ家の棚にしまい込み、空箱だと気付かなかったそうです。
しつこいくらいに要確認
忙しさを理由に確認を怠ると、後で痛い目を見る。「まあ大丈夫だろう」と高をくくらず、慎重に仕事をしようと心に誓いました。市販薬を販売するたびに、この経験を思い出して自分を戒めています。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2020年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:S.Takechi
調剤薬局に10年以上勤務。また小売業での接客職も経験。それらを通じて、多くの人の喜怒哀楽に触れ、そのコラム執筆からライター活動をスタート。現在は、様々な市井の人にインタビューし、情報を収集。リアルな実体験をもとにしたコラムを執筆中。