テイクアウト対応のカフェで働く日常
私は、テイクアウト対応のあるカフェで働いています。冬になるとホットコーヒーの注文が一気に増え、カウンターの中ではコーヒーを抽出して、紙コップに注ぎフタをして、お客さんに手渡す、という流れをひたすら繰り返す時間が続きます。
その日も特別なことはなく、私はいつも通りコーヒーを用意して、テイクアウトのお客さんに提供していました。
戻ってきたお客さんのひとこと
しばらくして、40代くらいの男性のお客さんが店内に戻ってきました。真っ直ぐこちらへ歩いて来て、私と目が合うなり「テイクアウトのホットコーヒー、家に帰ったら冷えてたんですけど」と、少し強めの口調でコーヒーをカウンターに戻します。
詳しく話を聞くと、家までは20分ほどかかるとのことでした。私は、「ホットでも、20分ほど経てば冷めてしまうと思います……」と説明しましたが、「テイクアウトでホットにした意味がない!」と、さらに語気を強めて引きません。どう言葉を選んでも、話は平行線のままでした。
助けに入ってくれた店長の対応
するとそのやり取りに気づいた店長が出てきて、一通り話を聞いたあと、「では確認のため、今一杯お作りしますね」と言いカウンターの中へ。店長は同じホットコーヒーを用意し、それをお客さんに渡して「こちらを、今お飲みください」と促しました。
お客さんは怪訝な表情で一口飲んで、「……熱いですね」と答えます。それを受けて店長は「こちらが、お渡ししたときの温度です」「20分の移動時間では冷めてしまうので、熱々のうちにお飲みになるには店内をご利用ください」と淡々と説明しました。
言葉より伝わる方法もある
お客さんはしばらく黙り込み、「……じゃあ今日はもういいです」と小さく言って、そのまま帰って行きました。
一連の様子を横で見ていた私は、帰っていくお客さんの背中を見ながらホッと息をつきました。同じ説明でも、言葉を重ねるより、実際に体験してもらうことで伝わることもあるのだと分かりました。助けに入ってくれた店長の機転の利いた対応に、心の中で拍手を送りたくなった出来事でした。
【体験者:30代・女性カフェ店員、回答時期:2025年3月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。