長い時間をかけて、やっと迎えた妊娠
私は夫と長年不妊治療を続けた末、第一子を妊娠しました。妊娠が分かったときは、もちろん嬉しさもありましたが、それ以上に「やっとここまで来た」という安堵の気持ちが大きかったのを覚えています。出産の日まで何が起こるか分からないという、不安な気持ちもありました。
だからこそ、妊娠のことも、不妊治療のことも、誰にどこまで話すかは慎重になっていました。必要以上に話題にしたくない、そっとしておきたい。当時はそんな気持ちで過ごしていたと思います。
知らないところで話題にされていた
ある日、夫側の親戚と話す機会がありました。世間話の流れで、「いろいろ苦労したんだって?」と、不妊治療について触れられたのです。私は、その親戚に治療の話をした覚えがありませんでした。曖昧に笑ってその場はやり過ごしましたが、心の中には小さな引っかかりが残りました。
あとから話を聞くうちに、義母が知り合いに「孫が生まれるのよ。不妊治療してて、やっとなの!」と話しているらしいことが分かりました。
義母に悪気がないことは、想像がつきます。嬉しくて、誰かに伝えたくなったのだろうとも思います。それでも、デリケートな話題が自分の知らないところで広まっていたことに、複雑な気持ちになりました。
言えなかった違和感と、救われたひとこと
「言ってほしくなかった」という思いはあります。でもそれをどう伝えればいいのか分からないし、(私の気にしすぎなのかな……)と考え、結局何も言えないまま時間が過ぎていきました。
そんなある日、義母と一緒にいるときに近所の人に会い、妊娠の話題になりました。義母はいつものように、「苦労してやっと授かったのよ」と言います。
すると、その人が少し間を置いて「実は私も不妊治療の経験があって……嬉しいのはわかるけどデリケートな話だから、勝手に話すのはよくないですよ」と、やんわり義母をたしなめてくれたのです。その瞬間、義母は言葉に詰まり、気まずそうな表情をしていました。
心が少し軽くなった理由
そのあと、義母から私に「嬉しくて舞い上がってたわ。配慮が足りなくてごめんなさい」と謝罪がありました。以降、妊娠や治療の経緯について、周囲に話すことはなくなったようです。
あの出来事を通して、違和感を持っていたのは私だけではなかったのだと感じられたことが、何より救いになりました。ずっと「自分が神経質なのでは」と気にする気持ちがあったからです。あのときの近所の人の優しく寄り添ってくれた言葉は、私の心を軽くしてくれました。
【体験者:30代・主婦、回答時期:2025年11月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。