祖父の訃報を受け、一人で岐阜へ向かった父。しかし、深夜の山道で父を待ち受けていたのは悲惨な事故でした。今回は、私の知人の貴絵さん(30代・女性)が高校生の時に体験した、忘れることのできない恐ろしくも不思議な出来事を紹介します。

早朝の電話が告げた「父の転落事故」

私が高校2年生のときの12月、父方の祖父が亡くなりました。知らせを受けた父・徹(仮名)は、その日の夜、東京から一人で岐阜にある祖父の家へと車で出発。母と私は、葬儀に間に合うよう2日後に電車で向かう予定でした。母は出かける父に、「峠道は通らないで」と念を押して送り出したのです。

翌朝、伯父から電話が入り、「落ち着いて聞いて。昨夜、徹が車で崖から落ちたんだ」 幸い命に別状はないから安心して、とのことでしたが、電話を切った母は、その場に崩れ落ちるようにしゃがみ込みました。母の動揺する姿に、私は最悪の事態を想像して震えが止まりませんでした。

崖底に沈んだ車体

母と私が急いで岐阜へ駆けつけると、父は頭に大きな絆創膏を貼ってはいたものの、意外なほど元気な様子でした。その姿を見た瞬間、私は張り詰めていた糸が切れ、一気に涙が溢れてきたのです。

父が語った事故の詳細は驚くべきものでした。事故が起きたのは深夜。母から通るなと言われていた峠の山道でした。父はカーブを曲がり損ね、ガードレールを突き破って50メートル下の崖へと転落。車は巨木に激突してようやく止まりましたが、助手席側はぺしゃんこに潰れていたそうです。父は頭から流血しながらも、無我夢中で車から脱出し、自力で崖を這い上がったのだと。

奇跡の救済者

事故現場は、夜間にはほとんど車が通らない寂しい山道でした。しかし、父が這い上がった直後、たまたま1台のトラックが通りかかったのです。

真っ暗な山道で、頭から血を流した男性がよろよろと立っている……。トラックの運転手は、最初「幽霊が出た!」と驚いたそうです。それでも、車を止めて父を助けてくれました。もしこのトラックが通りかからなければ、父は冬の山中で間違いなく凍死していたはずです。

翌朝、事故車を引き上げた作業員は、潰れた車体を見るなり、「ひどいな。これは助からなかっただろうな」と呟いたといいます。

守られた命

後日、父は事故の原因が居眠り運転だったと打ち明けました。少しでも早く着きたいという焦りから、休憩も取らず車を走らせ、しかも近道の峠道を通ってしまったのです。

50メートル転落してかすり傷で済んだこと、自力で崖を這い上れたこと、奇跡的にトラックが通りかかったこと……。どれか一つでも違っていれば、父はこの世にいなかったでしょう。

あれから何年経っても、この出来事を思い出すたびに私は鳥肌が立ちます。あの夜、崖の底で父を守ったものは何だったのか……? 私の頭に浮かぶのは亡くなった祖父の優しい顔だけです。祖父が天国へ行く間際に、息子を必死で押し戻してくれたのだと信じています。

【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2020年12月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:Sachiko.G 
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。