私の同僚・Kさんの体験談を紹介します。お薬を飲み忘れた経験は誰にでもあることでしょう。調剤薬局ではそんなお薬をムダにしないため「残薬調整(ざんやくちょうせい)」というサービスがあるのですが……。

余ったお薬の活用法

薬局が行うサービスのひとつに「残薬調整」があります。飲み忘れたお薬の残数を確認し、医師に処方日数の調整を依頼することで、お薬をムダにせず有効活用できるサービスです。

常連患者の野原さん(仮名)が、処方せんとパンパンにふくらんだ袋を持ってやって来ました。「家に余ってた薬を持ってきたから、調整してくれない? バスの時間が迫ってるから手短にお願いね」薬剤師数人で確認作業に入ったのですが、中身を見た瞬間に固まってしまいました。

想像以上の難易度

お薬は、1つのシート包装に10錠ないし14錠が連なっているものが一般的です。野原さんの残薬はシート包装が1錠ずつに切り分けられていて、さらに数種類がごちゃまぜ。まるでくじ引きのような状態だったのです。

残薬調整は、ただでさえ時間と労力の必要な作業。バラバラ状態なら尚更です。事情を野原さんにお伝えすると「えっ、すぐにはできないの?」と困惑した様子でした。結局、バスを1本遅らせてもらうことになりました。

地道な人海戦術

手の空いたスタッフ総出で取りかかり、1錠ずつひたすら数えます。薬袋の日付から察するに、飲み忘れの残薬は約3か月分。薬の種類も複数あり、全部でなんと200錠以上! 飲み忘れの状況も含めて処方元の医師に相談し、1回分ずつひとつの袋にまとめてお渡しすることになりました。

手早くできない理由

残薬調整は薬剤師の仕事のひとつで、責任をもって取り組みます。しかし「数を数えるくらい簡単でしょ?」と思って急かされると困惑してしまいます。実際には数の調整に加え、残薬の原因の特定なども行っているからです。

患者さんがきちんとお薬を服用できるようにするための、大切な業務。時間のかかる作業だとご理解いただいた上で、困った時は気軽に頼ってほしい。そんなふうに感じた出来事でした。

【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2025年12月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています

EPライター:S.Takechi
調剤薬局に10年以上勤務。また小売業での接客職も経験。それらを通じて、多くの人の喜怒哀楽に触れ、そのコラム執筆からライター活動をスタート。現在は、様々な市井の人にインタビューし、情報を収集。リアルな実体験をもとにしたコラムを執筆中。