ベビーカーで電車を利用することがある私の知人・玲奈さん(仮名)。いつも人が少ない時間帯に乗るなど、他の乗客の迷惑にならないよう気をつけていました。しかし、ある日の電車内で女性に怒鳴られてしまい……。

ベビーカーで出かけるときの配慮

息子の健診があった日、私はベビーカーで電車に乗る必要がありました。ひとりでベビーカーを畳むのは危なくて難しいので、いつも電車はできるだけ空いている時間を狙って乗るようにしています。この日も車内はガラガラで、ベビーカースペースに静かに乗っていました。

息子はすやすや寝ていて、ほっと胸をなでおろしたところでした。周りの迷惑にならないように気を配りながら乗るのは、正直いつも緊張します。(今日も無事にいけそうだな……)と思いながら、邪魔にならないように立っていました。

「ベビーカーは畳んで!」と言われて……

そんなとき、次の駅で年配の女性が乗ってきました。私の姿を見るなり、開口一番「ちょっとあなた、ベビーカーは畳むべきでしょ!」思わず息が止まるようでした。電車は空いているし、指定のスペースにいるだけなのに……。戸惑いながら、「すみません、ひとりなので畳むと子どもを抱えて危なくて……」と丁寧に説明しました。

しかし女性は聞く耳を持たず、「畳むのがマナーなのよ!」「若い人は常識がない!」と、まるで私が非常識なことをしているかのように、声を荒げて言い続けます。(電車は空いているのに……どうしてこんなふうに言われるんだろう)と泣きそうになりながら、息子を起こさないよう必死に耐えていました。

思わぬフォローで助けられた瞬間

そのとき、近くに立っていた若い女性がすっと私のそばに寄ってきました。「今はベビーカーを畳まなくていいんですよ。鉄道会社もそのルールです」「こんなに空いてるんだからいいじゃないですか。畳むほうが危ないですよ」その声ははっきりしていて、でも優しくて、一瞬で空気が変わったように感じました。

周りの乗客も「そうだよ」「危ないよね」と言うように小さくうなずき、視線が明らかにこちらに味方してくれているのが伝わりました。

年配の女性はばつが悪そうに黙り込み、そのまま何も言わずに別の車両へ移動していきました。その瞬間、緊張がふっとほどけるようでした。

あたたかく見守ってくれる人がいる

助けてくれた女性に「ありがとうございます」と頭を下げると、その方は笑って言いました。「私も子どもがいるので分かりますよ。赤ちゃん連れてひとりで出かけるのって、大変ですよね」その言葉に涙が出そうになりました。迷惑をかけているんじゃないか、邪魔だと思われているんじゃないか……そんな不安を抱えながら出かけることが多かったからです。

ちゃんと見てくれる人もいるんだ。味方でいてくれる人もいるんだ。そう気づいたら、胸の奥があたたかくなりました。子連れで外に出るときは、まだ少し緊張します。でも、見守ってくれる人の優しさは、今も私の中で静かに心を支えてくれています。

【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年3月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。