想定外の返事が来た時、ドキッとしてしまった経験は誰しも一度や二度あるのではないでしょうか。今回は、脱毛サロンで働く私が仕事中に不覚にも予想外のリクエストをいただき、焦ってしまった出来事をご紹介します。

思いがけないリクエスト

脱毛サロンで働く私は、施術前にお客様へ室温やブランケットの追加など、快適に過ごせるよう細かく確認しています。ある日、ご来店されたお客様にもいつもと同じように伺うと、「加湿器を貸してほしい」とのご返答。加湿器を求められたのは初めてで少し焦りましたが、休憩室に置いていた私物を施術室へ運び、なんとか対応しました。

意外な職業

お客様は美しい顔立ちで、乾燥をとても気にしている様子から、私は勝手に“女優さんかモデルさんなのかな”と思っていました。ところが会話の流れで、彼女の職業がボイストレーナーだと判明します。

「喉がやられちゃうと仕事にならなくて。ワガママ言ってしまいごめんなさい」と申し訳なさそうに話されるお客様。その言葉をきっかけに、彼女はボイトレの世界について色々と教えてくれたのです。

たった一言の重み

私は、ボイトレに通うのは声優志望の方が多いのだろうと思っていました。しかしお客様によると、声優志望の人は専門学校へ進むケースが多く、実際にボイトレへ来る理由のNo.1は「音痴だから」なのだそう。

ところがお客様は続けます。「みんな、全然音痴なんかじゃないんです」と。幼い頃や思春期に、家族や友人から一度でも「音痴だね」と言われた経験があると、それが心の棘になり、歌うことや人前で話すことに抵抗を持ってしまう人がとても多いのだと教えてくれました。

「もしその一言が『歌、上手だね』だったら、その人の人生はきっと違っていたと思うんです」と語るお客様の表情は、とても優しく、そしてどこか悲しげだったのを覚えています。

加湿器から始まった気づき

加湿器を求められたときは少し不思議なお客様だと思っていましたが、実はとても素敵なボイストレーナーだったのです。彼女との会話を通して、私は“言葉の重み”について改めて考えさせられました。

たった一言で、人を活かすことも、傷つけてしまうこともできる。サロンで働く私自身も、お客様にかける言葉をもっと丁寧に選びたいと、改めて感じた出来事でした。

【体験者:50代・女性会社員、回答時期:2025年11月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:桜井ひなの
大学卒業後、金融機関に勤務した後は、結婚を機にアメリカに移住。ベビーシッター、ペットシッター、日本語講師、ワックス脱毛サロンなど主に接客領域で多用な仕事を経験。現地での出産・育児を経て現在は三児の母として育児に奮闘しながら、執筆活動を行う。海外での仕事、出産、育児の体験。様々な文化・価値観が交錯する米国での経験を糧に、今を生きる女性へのアドバイスとなる記事を執筆中。日本でもサロンに勤務しており、日々接客する中で情報リサーチ中。