期待の「即戦力」候補
私が公認会計士事務所で働いていた頃のことです。繁忙期に入り、人手不足を補うため、40代の派遣社員・木田さん(仮名)が採用されました。元上場企業の経理経験者という経歴で、10年のブランクがあるとはいえ、所長をはじめ皆が即戦力として期待していました。
期待と現実の乖離
ところが働き始めてみると、木田さんのスキルは予想を大きく下回っていました。パソコンの基本操作すらおぼつかなく、他のスタッフなら30分もかからない資料作成に半日かかる状態。おまけに何度も同じミスを繰り返すのです。OJT担当の先輩も次第に匙を投げ、それを察した木田さんは、事務所で一番の新米だった私を何かと頼って話しかけてくるようになりました。
驚いたことに、木田さんの話は具体的な仕事のことではなく、「占いの先生にこう言われた」というものばかりでした。「自宅の玄関の置物の位置が悪いと言われた」「今は低迷期だからミスをしても仕方ないと言われた」そんな話ばかりで、現実の課題から目をそらしているようでした。
所長へ反抗
ある日、木田さんが突然、「先生に、所長との相性が最悪と言われたんです」と言い出し、所長に対してふてぶてしい態度を取り始めました。さらに「この事務所のレイアウトは風水的に良くない」「ここで働くと運気が下がる」とまで言い放ったのです。
周囲は木田さんの言動にびっくりし、誰も近寄らなくなりました。能力不足と勤務態度の悪さが問題となり、木田さんは試用期間の2ヶ月で契約終了となりました。
呪いのメール
ところが退職後も、木田さんから私にメールが届き続けたのです。「私はたまたま低迷期だっただけなのに、所長のせいで仕事を失った」「事務所のレイアウトが悪いせいだ」という恨み言ばかり。自分の努力不足を受け止める気配はありませんでした。毎日届く呪いのようなメールがだんだん怖くなり、私は徐々に返信を控え、最終的にはメールをブロックし、連絡を絶ちました。
占いは、人生の指針になったり、時に背中を押してくれるものですが、木田さんのように全てを占いに依存し現実の努力を放棄すると、最終的に自分自身を追い詰めるのだと思い知りました。
【体験者:60代・女性会社員、回答時期:2025年12月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。