仰せの通りに作ります
森川さん(仮名)は、月に1度やってくる患者さんです。医師から一包化の指示が出ており、お薬には日付も印字しています。処方せんの内容を確認したところ、前回と同じ内容で明日の分から作ればよさそうです。
しかし、森川さんは「1日分飲み忘れたんだよね。明後日の分から作って」と希望してきました。日付をメモに書き、本人にも確認していただいいたうえでお薬を準備し、その日の対応を終えました。
昨日のやりとりはどこへ消えた?
しかし翌朝、森川さんはなぜか怒り心頭で再来局します。開口一番「今朝の薬が無いんだけど! どういうこと!?」と声を荒げながらお薬の束を叩きつけてきました。
私は動揺しつつも冷静さを取り繕い、昨日のやりとりを説明します。残していたメモも見せましたが
「はあ? そんなこと言った覚えはない。あんたが聞き間違えたんじゃないの?」と、まるで昨日のやりとりが無かったかのような口ぶり。森川さんはとにかく頭に血がのぼっていて、一方的な怒鳴り込みのような状況でした。
記憶じゃなくて、記録で確認
まともな話し合いはできそうにない。そう判断した私は、ある手段に出ます。「昨日のやりとりを一緒に確認しましょう。当店は、安全対策で防犯カメラを設置しています。音声もばっちり残っているはずです」
すると、森川さんの態度は一変。「いやっ……そこまでしなくてもいいわよ……」と、さっきまでの威勢はどこかへ飛んでいってしまったようです。結局、昨日作ったお薬の一部を日付変更し、その場で飲んでもらうことに。最後は静かに薬局を後にしました。
論より証拠
森川さんがなぜ強い怒りをぶつけてきたのか、本当のところは分かりません。けれど、私たち従業員も人間です。心も身体も消耗します。
今回のケースでは、優先すべきは感情よりも事実確認。ひとつずつ確かめて冷静に対応すること。それが私たち従業員と、安全な医療現場を守ることに繋がるのだと信じています。
【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2023年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています
EPライター:S.Takechi
調剤薬局に10年以上勤務。また小売業での接客職も経験。それらを通じて、多くの人の喜怒哀楽に触れ、そのコラム執筆からライター活動をスタート。現在は、様々な市井の人にインタビューし、情報を収集。リアルな実体験をもとにしたコラムを執筆中。