お薬の記録や飲み合わせの確認に欠かせないお薬手帳。この手帳には、表紙デザインがある種類も。今回は、調剤薬局で働く私自身が体験した、お薬手帳のデザインをめぐって起きた騒動をご紹介します。

ファン心理をくすぐるアイテム

以前、某アニメとコラボした、特別デザインのお薬手帳が世に出回ったことがありました。調剤薬局ではその時、既存の患者さんに加え、初めての方からも「在庫ありますか?」という問い合わせを何件もいただく事態に。

必ずあるものじゃない

しかし、コラボデザイン版は全ての薬局に配布されたわけではありません。うちには在庫がないことを伝えると、大抵の患者さんはそこで諦めてくれました。しかし、横山さん(仮名・30代女性)だけは「ないなら取り寄せて」と言ってきたのです。

他の患者さんと同じように、在庫がないことを伝えますが、横山さんは食い下がりません。「お薬手帳は『欲しい』と言えばもらえるはず。患者が希望してるんだから用意しなさいよ」と主張する彼女に、私はタジタジになってしまいました。

無茶な要求をキッパリ断る

そこへ助け舟を出してくれたのは、先輩スタッフの牧さん(仮名)です。牧さんは、カウンターで押し問答をしている私たちにそっと近寄ると、数種類のお薬手帳を並べ、キッパリと言いました。

「うちでご提供できるのは、あくまで『医療サービス』です。お薬手帳はその一環ですが、キャラクターグッズのサービスはしておりません」

牧さんの毅然とした態度に、横山さんは一瞬ポカンとした表情に。一部始終を見ていた他の患者さんからも「おねえさん、大事なのは中身だよ」となだめられ、薬局中の注目を浴びるハメになってしまいました。横山さんは顔を真っ赤にしながら「他でもらうわよ!」と勇み足で薬局を後にしました。

手に入らないなりに、工夫したらしい

1か月後、普通に来局した横山さん。差し出されたのは処方せんと、某アニメキャラのシールでデコレーションされた、手作りのお薬手帳です。「あ、工夫したんだなあ……」と思いつつ、そこには何も触れず。スタッフはすぐさまページを開き、飲み合わせなどの確認に入るのでした。

【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年3月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:S.Takechi
調剤薬局に10年以上勤務。また小売業での接客職も経験。それらを通じて、多くの人の喜怒哀楽に触れ、そのコラム執筆からライター活動をスタート。現在は、様々な市井の人にインタビューし、情報を収集。リアルな実体験をもとにしたコラムを執筆中。