私の知人の美香(仮名)が専門学校で講師をしていた時のこと。「悪いのは鉄道会社」と言いながら、2年間遅刻をし続けた生徒と、彼の卒業をめぐって抗議をしてきた父親。ルールを無視する親子との間に起きた騒動をご紹介します。

ほぼ毎日の「電車遅延」

私のクラスに、ほぼ毎日遅刻してくる男子学生A君がいました。理由は決まって「電車遅延」。得意げに差し出す遅延証明書には「15分遅延」とあるのに、A君の遅刻は30分。なぜか聞くと、「最初の電車が15分遅延したことで、乗り換えの接続が悪くなり、30分遅刻したんです」とのこと。

「毎日電車が遅れるなら、家を少し早く出れば?」と言うと、「本来、時刻表どおりなら遅れないはず。悪いのは鉄道会社ですよ」と妙な屁理屈を言ってきます。私は半ば呆れながら、「たとえ鉄道会社が悪いとしても、授業を受けられないとあなたが損をするのよ」と伝えても、「別に大丈夫です」と取り付く島もありません。

現実を突きつけられた卒業試験

2年生の卒業試験。彼は4科目で合格点に届かず、卒業延期が確定してしまいました。私はA君に「補講を受け、再試験に合格すれば3月末までに卒業が可能」と説明。いつも飄々としている彼が、この時ばかりは動揺を隠せず、小さくうなずいて帰りました。

夕方、職員室の電話が鳴り私が出ると、相手はA君の父親。「卒業できないとはどういうことだ!」と、いきなりすごい剣幕で怒鳴られたのです。

父親の怒鳴りこみ

父親は「息子は就職も決まっているんだ。内定が取り消しになったらどうしてくれるんだ!」と激昂。補講と再試験の段取りを説明すると、「だったら今すぐ補講をやれ! 卒業式の後にやるなんて、嫌がらせか!」私はつとめて冷静に、学校の規定に基づいたスケジュールであると説明しましたが、父親の怒りは収まらず。

見かねた校長が電話に出て、「お父様のお気持ちは理解します。しかし本校では、卒業に関していかなる“例外”も設けておりません」と通告。校長の毅然とした対応に、父親は何も言えずしぶしぶ電話を切りました。

痛すぎる代償

補講を終え、再試験に臨んだA君でしたが、結果は不合格。留年が確定し、内定も取り消しに。2年間の遅刻のツケは、数日間の補講や父親の怒りでも補うことは出来ませんでした。

当初、学校に向けられていた父親の怒りは、最終的には息子に向かったようで、後日、A君は私に「父に人生で初めて本気で怒られました」と報告してきました。

彼は、自分自身の行動によって、貴重な時間と費用、そして社会的な信用を失う結果を招いてしまったのです。

【体験者:30代・専門学校講師、回答時期:2018年4月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:Sachiko.G 
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。