静寂のフロント、夜勤のひととき
地方のビジネスホテルで夜勤をしていた頃の話。時計の針は午前1時を回り、フロントは静まり返っていました。夜勤のスタッフ2人。静かなロビーでパソコンの画面に向かい、予約の確認や電話対応を淡々とこなす時間。外の街灯に照らされたロビーの窓ガラスが、わずかに光を反射している程度で、夜のホテル特有の静けさが漂っていました。
夜のフロントに響く怒号、幽霊騒動の始まり
突然、エレベーターの音とともに、フロントに怒鳴り声が響きました。「おい! お前ら、なんで幽霊が出る部屋に泊めた!」パジャマ姿の中年男性が顔を真っ赤にして駆け寄り、フロントカウンターに手をつきました。慌てて「どうされましたか?」と聞くと、男性は息を荒くして言いました。
「部屋の窓に白い女が映ったんだよ! じっとこっちを見てた!」その迫力に、もう1人の夜勤スタッフと顔を見合わせ、思わず小声で「まさか……」とささやき合いました。
普段なら平穏なロビーも、その瞬間は空気が張り詰め、まるで心臓が飛び出しそうなほどの緊張感に包まれました。
現れた白い影、正体は……
私は一旦落ち着きを取り戻し、防犯モニターで部屋の様子を確認しました。映像には確かに「白い影」が映っています。
しかし、よく見ると一定の間隔でチカチカと点滅しているではありませんか。
怪しい現象の正体を探るため、フロントから窓の外をチェック。すると、すぐ下に設置された自販機のLEDライトが窓ガラスに反射しているだけだと判明しました。私たちは安堵しつつも、「夜勤でも“あるある”の気のせいか……」と苦笑い。
恐怖の夜が笑いに変わった瞬間
男性に「窓に映っていたのは自販機の光でした」と説明すると、男性は一瞬固まり、顔を赤くして「……あ、そう……」と部屋に戻っていきました。
フロントには再び静けさが戻り、かすかに自販機の光だけがロビーに反射していました。緊張感たっぷりで始まった一夜は、思わず笑ってしまうような小さな結末で幕を閉じました。「幽霊騒動はこれで終わった」と胸を撫で下ろしつつ、自販機の光に軽くツッコミを入れたのでした。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年4月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:miki.N
医療事務として7年間勤務。患者さんに日々向き合う中で、今度は言葉で人々を元気づけたいと出版社に転職。悩んでいた時に、ある記事に救われたことをきっかけに、「誰かの心に響く文章を書きたい」とライターの道へ進む。専門分野は、インタビューや旅、食、ファッション。