美容室では、さまざまなお客さんとの出会いがあります。私の友人・美容師の今田さん(仮名)は、ある日難しいオーダーのカラーを担当することになりました。しかしお客さんは仕上がりに納得がいかず、クレームになってしまい……まさかのオチで結果的に笑い話になったエピソードです。

難しいオーダーのお客さん

美容師として働いていると、印象に残るお客さんとの出会いがたくさんあります。​​その日私が担当したのは、40代の男性・宮原さん(仮名)。こだわりが強く、「この色にしてほしい」と雑誌の写真を見せてくれました。

ただ、これまでのカラー履歴を考えると、この色の再現は少し難しいかも……と感じました。できる限り理想に近づけるための方法や、希望の色になりにくい可能性も丁寧に説明し、了承を得てから施術をスタートしました。

結果に不満!! まさかの怒号!?

仕上がった髪色は、私としては想定どおりでした。光の加減によっては希望に近い色合いになり、安堵したのも束の間……鏡を見た宮原さんは顔をしかめ、「なんやこの色は! こんな暗い色になるなんて聞いとらん!」と怒鳴り始めたのです。

慌てて説明をしましたが、「納得いかん!」の一点張り。20分近く怒り続ける声が店内に響き、他のスタッフは周りのお客さまへのフォローでてんやわんやです。結局その日は時間も遅くなってしまい、「3日後にもう一度調整を」という約束をしてなんとかお帰りいただきました。

ドキドキの再来店日

閉店後、私はバックヤードでオーナーと緊急ミーティングです。「この薬剤の配合でいこうか」「いや、こっちのほうが……」と慎重に作戦を立てました。

そしていよいよ迎えた宮原さんの来店予定日。朝からスタッフ全員がピリピリしていました。みんな時計をチラチラ見ながら「そろそろ来るね……」と落ち着かない雰囲気です。そんな中、突然店の電話が鳴りました。

思わぬ電話で脱力

「宮原やけど。シャンプーしたらちょうどいい色になった。今日は行かん」それだけ言って、プツッと電話が切れました。私はしばらく固まったあと、思わず吹き出してしまいました。

他のスタッフたちにも報告すると、一斉に「なんだそりゃ!」「ちょうどよくなったんかい!」と笑いが広がりました。オーナーまで「まぁまぁ、この件は“水に流そう”。シャンプーだけにね」と言って、店内が穏やかな空気に包まれました。

あのときは胃が痛くなるほど緊張しましたが、今では思い出すたびに笑ってしまいます。私の“美容師人生最大のクレーム”は、意外にも平和なオチで幕を閉じたのでした。

【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年10月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。