私の友人・香穂さん(仮名)は、出産後はなかなか外出できずにいました。やっと娘とのおでかけでカフェに行けるようになったとき、座っておしゃべりしていると隣の女性客から「うるさい」と言われてしまって……。

久しぶりのカフェ時間にワクワク

出産前はカフェ巡りが大好きだった私ですが、育児が始まってからはすっかり遠ざかっていました。娘が2歳になり少しずつ外出にも慣れてきた頃、久しぶりに娘とふたりでカフェチェーン店へ入って、それだけでワクワクしました。

ふたり並んで座って、娘が「ママ、ドーナツおいしいね〜」と話す姿を見ると胸がいっぱいに。こうして一緒にカフェに来られるようになったんだなぁ、と成長を感じて、幸せな気持ちを噛み締めていました。

隣席からのひとことに胸が詰まる

ところがそのとき、隣の席の年配の女性がこちらを見て顔をしかめ、「ちょっとうるさいです」とひとこと。娘は騒いでいたわけではなく、小さな声でおしゃべりしていただけ。でも、もしかしたらそれもうるさく感じる人はいるかもしれない……そう思ったら、何も言い返せませんでした。

「すみません……」と女性に頭を下げて、その後はせっかくのコーヒーも味がしなくなり、早く店を出たい気持ちで急いで飲んでいました。胸の奥が苦しくなって、「やっぱり子どもとカフェなんて無理なのかな」と悲しくなってしまいました。

思いがけない“共感の言葉”

そんなとき、隣の女性がトイレに立ったタイミングで、別の席にいた若い女性がそっと声をかけてきました。「すみません。私も3年前、同じことで泣きました」

突然の言葉に驚いていると、その人は優しく微笑みながら続けて「子ども連れって、それだけで気を遣いますよね。でも娘さん、ちゃんと静かにしててえらいですよ」と。

その言葉に張りつめていた気持ちがほぐれて、涙が溢れてしまうほど救われた思いでした。そのときは「ありがとうございます……」と答えるのが精一杯でしたが、温かい声のトーンを今でもはっきり覚えています。

今も心に残るやさしさ

カフェを出て、娘と手をつなぎながら歩いているとき、心の中で何度もその女性の言葉を思い出しました。「子どもと一緒に外で過ごす時間を、怖がらなくていいんだ」と思えて、少し肩の力が抜けた気がします。

名前も知らない、たった一度きりの出会いだったけれど、あの優しいひとことは今でも心の支えです。もらった優しさや気遣いは、ずっと長く心に残ると感じた出来事でした。

【体験者:30代・主婦、回答時期:2025年9月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。