“きちんと”が正義だった新人時代
新卒で入ったのは、歴史あるお堅い金融企業でした。パンツスーツにハイヒール、きっちりメイクが毎日の制服のようなもの。取引先への訪問時は、デパ地下の高級手土産を提げて出向き、初対面のプレゼンでも「てにをは」まで神経を張りつめていました。
新人の頃から先輩に言われ続けたのは、「凛とした態度で。キリッといこう」という言葉。“ちゃんとしていること”こそが信頼の証であり、好かれる条件だと信じていました。
180度違う世界への転職
10年働いたあと、ふと別の世界を見てみたくなり、思い切って転職しました。飛び込んだのは、これまでとは正反対のエンタメ業界です。最初に驚いたのは、誰もスーツを着ていないこと。代わりに映画Tシャツやアニメキャラのキーホルダーをつけて、みんな堂々と“好き”を身にまとっていました。
最初は「ラフすぎでは……?」と戸惑いましたが、話してみると全員が仕事を心から愛していて、命をかけているような本気の人たちでした。
“凛とする”の意味が変わった瞬間
“凛とする”よりも、“夢中で語る”ことが信用になる。そんな世界を初めて知りました。個性を押し殺していた私には、最初はまぶしくて息が詰まるほどでした。でも気づけば、私もいつの間にか映画の話で盛り上がり、Tシャツ姿で現場を走っていました。
以前のように「ちゃんとしなきゃ」と肩に力を入れることなく、「私はこういう人間です」と自然体のままで自信を持って人と向き合える自分がそこにいました。
本当の“誠実さ”とは
「ちゃんとしていない=失礼」だと思っていた過去の自分に、今なら言いたい。誠実さは服装や態度ではなく、どれだけ“好きなことに真剣か”でも伝わるのだと。きちんと装っていなくても、好きなことにまっすぐ向き合う人は、誠実で美しいのだと思います。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2022年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Ryoko.K
大学卒業後、保険会社で営業関係に勤務。その後は、エンタメ業界での就業を経て現在はライターとして活動。保険業界で多くの人と出会った経験、エンタメ業界で触れたユニークな経験などを起点に、現在も当時の人脈からの取材を行いながら職場での人間関係をテーマにコラムを執筆中。