初めてのドライブ
車の免許を取ったばかりの次女と、海沿いまでドライブに出かけました。いつもは私が運転して、娘が助手席。でもこの日は逆。慣れないハンドルを握る娘の横で、私は少し緊張しながらも嬉しさが込み上げていました。助手席から、運転する娘の写真を何枚も撮りました。「ほら、初ドライブ記念!」娘は照れながらも笑ってくれました。
目的地の海浜公園に着くと、並んで写真を撮り、波の音を聞きながら少し散歩。穏やかな時間を過ごして、帰路につきました。
写真の違和感
帰宅後、撮った写真を家族に共有したり、仲の良い同僚にも見せたりしました。「娘さん、すっかり大人になったね」と言ってもらえて嬉しかったのですが、その同僚が写真を見ながら首をかしげたのです。「これ、後ろ……何か写ってない?」
画面を拡大してみると、私たちの後ろに停まっている車の窓に“何かの顔”のようなものが。よく見ると、それは犬のようにも見えます。「え? 犬? でもその時、犬なんていなかったのに……」同僚と一緒に考え込んでしまいました。
思い出したのはかつての……
その夜、離れて暮らす長女から連絡がありました。「お母さん、あの写真に写ってる顔、コロンじゃない?」コロン。それは、娘たちがまだ小さい頃に飼っていた柴犬の名前です。私が次女を出産して間もなく離婚し、実家へ戻った時、家族を明るくしてくれた存在でした。
コロンは人懐っこくて、特に次女ととても仲良し。次女が泣くと、そっと寄り添って顔を舐めていたほどです。けれど3年ほどたったある日、急に体調を崩してそのまま旅立ってしまいました。
一緒にドライブしてた?
免許を取って初めてのドライブ。緊張していた次女を、コロンが心配して見守っていたのかもしれません。そう思うと、写真に写った“犬のような顔”が不思議と怖くはありませんでした。むしろ、温かい気持ちになったのです。あの子らしい優しい表情で、今もどこかで見守ってくれているのだと思うと、胸がじんわりしました。
見えない絆
姿は見えなくなっても、想いは消えません。コロンが写真に残した“存在の証”は、私たち家族の大切な思い出のひとつになりました。
大切な瞬間ほど、見えない力がそっと寄り添ってくれている。あの写真を見返すたびに、私はそう感じずにはいられません。
【体験者:40代・女性パート、回答時期:2025年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。