人見知りな新人のフォローを任されて
私が調剤薬局で働いていたときのことです。新しく入社してきた薬剤師・梶原くんの指導係を任されたことがありました。彼はとても真面目で、仕事にも一生懸命。
ただ、人見知りな性格のようで、なかなか職場の雰囲気に馴染めずにいました。話しかけても返ってくるのは小さな声で一言だけで「大丈夫かな……?」と心配になるほどです。
それでも安心してもらいたい一心で、私はなるべく声をかけるようにしていました。困っている様子を見かけたら、「ここまでは合ってるよ」「焦らなくて大丈夫」とフォローし、少しずつ距離を縮めていくのが目標でした。
休みの前日にかけた“ひとこと”
そんなある日の終業後。私は翌日が休みだったので、梶原くんが少し気がかりで「分からないことがあったら、他の先輩に聞いてね」と声をかけました。
そのあとで「もし何か困ったことがあったら、連絡してくれてもいいから」と、ひとこと添えたのです。人間関係で悩んでいたり、不安があったら話してほしいなという気持ちでした。
まさかの電話の内容にびっくり
その夜のこと。スマホが突然鳴り、画面を見ると梶原くんからです。「えっ!? もしかして職場でトラブル!?」と緊張して慌てて出ると、相談内容にびっくり。
「崎本さん、彼女が冷たくてどうしたらいいですかね……」
予想外すぎて、一瞬言葉を失いました。仕事の話ではなく恋愛相談だったのです。
拍子抜けしながらも、「それは大変だね……。その話は、今度休憩時間にでもゆっくり聞くね」と返すと、「あ、すみません!」と慌てて電話を切る梶原くん。私は思わず吹き出してしまいました。
距離感の難しさと、ちょっとした温かさ
翌日出勤すると、梶原くんが少し照れくさそうに「昨日はすみません」と頭を下げてきました。どうやら自分でも“やらかした”と思っていたようです。それからというもの、仕事の質問もしやすくなったのか、私に話しかけてくることが増えました。
あの電話は想定外でしたが、結果的に彼との距離がほんの少し近づいた気がします。あの真っすぐさに悪気なんてなくて、むしろ人懐っこい素直さが垣間見えた瞬間でした。休みの日の電話は勘弁してほしいけれど、今となってはちょっと微笑ましい思い出です。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。