明るく元気な新入社員登場
私が働いている調剤薬局に、薬剤師・中川くんが入ってきたのは、冬のはじめ頃のことでした。とにかく明るくてハキハキしており、患者さんにも元気いっぱいで対応する姿が印象的。
少し空回りするシーンもありましたが、みんな「元気なのはいいこと」と温かく見守っていました。初々しくも一生懸命で、ムードメーカー的な存在だったのです。
人気商品の売り切れ続出
その頃、薬局では冬の定番人気商品「あったか靴下」を販売していました。ふわふわで履き心地がよく、とくに黒が圧倒的な人気です。どれだけ入荷してもあっという間に売り切れてしまう状態でした。
赤やベージュなど他の色の展開もあったのですが、黒ばかりが売れて棚はいつもスカスカ。患者さんからも「黒、もうないの?」とよく聞かれていました。
まさかの“値引きします!”宣言
そんなある日、お薬を受け取った患者さんが中川くんに「靴下の黒はもう売り切れかしら?」と尋ねていました。中川くんは「そうなんですよ、人気で売り切れちゃって……」と申し訳なさそうに答え、私は横で「ちゃんと対応してくれている」と安心していたのですが……その直後、衝撃のひとことが。
「赤だったら値引きしますよ!」笑顔でサラッと言う中川くんに、聞いていたスタッフ全員が大慌て。私も「えっ!?」と声を出してしまいました。
「申し訳ありません、値引きはしていないんです」「黒は来週入荷予定でして!」と急いでフォロー。患者さんは「そうなの? じゃあ来週また来るわね」と笑ってくださり、大事にはなりませんでした。
真っ直ぐな新人の“空回り”
落ち着いたあと「どうしてあんなこと言っちゃったの?」と聞くと、中川くんは真剣な顔で「赤が売れ残ってたから、売らなきゃ! と思って」と答えました。悪気はまったくなく、むしろ貢献したい気持ちが前のめりすぎただけ。私たちは思わず笑ってしまいました。
その後は販売ルールを改めて共有し、「値引きなどの判断は勝手にしないようにね」と念押ししました。それからも中川くんの明るさは変わらず、みんなを笑顔にしてくれる存在です。あの“勝手に値引き宣言”のハプニングも、今では笑ってしまういい思い出です。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。