売り場以外の場所に置き去りの商品
私の働くスーパーでの出来事です。ここ最近、本来の売り場以外の場所に、商品が置かれる事件が多発しています。要冷蔵の生鮮品までも、無関係なところへ置き去りにされていました。品質が保証できない商品を売るわけにはいきません。商品は廃棄、まるまる店の損失です。
被害の多さに耐えかねた店長が監視カメラを調べると、浮かび上がったのは1人のお客さん。その人が来店するたびに見張り、犯行の瞬間に声をかけ、そのままバックヤードへ来てもらいました。
迷惑行為の理由
一連の迷惑行為の犯人は野村さん(仮名)。近所に住む、80代の女性です。商品を売り場に戻さない理由を、彼女はこう主張しました。「この店が広すぎるからいけないんだ! 私は足が悪いのに、売り場を行ったり来たりさせる気か!」困ってしまった私の横で、店長は何やら考え込んでいる様子。
数分の沈黙の後、店長は野村さんにこう言いました。「野村さん、足が悪いのに一生懸命お店に通ってくれてたんですね。ありがとうございます。うちね、ネットスーパーやってるんですよ。それ使って、楽に買い物しませんか?」
使ってみたら意外と快適
野村さんは面倒くさそうな反応でしたが、まずはお試しで利用することに。最初の数回は店長みずから配達に向かい、注文のアドバイスや世間話を交わすたび、気付けば野村さんはネットスーパーのお得意様になっていました。
ムダな廃棄が無くなり、店長はにっこり。野村さんも足の痛みをこらえての買い物や、重い荷物の持ち帰りから解放されて満足そうです。
「店長」は、名ばかりじゃない
あの時、私一人で対応していたら、正論を返して終わってしまっていたかもしれません。
いつもは冗談まじりでお調子者の店長。しかし、いざと言う時は機転を利かし、責任者として問題を解決する。そんな店長のすごさを、改めて感じた瞬間でした。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2024年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:S.Takechi
調剤薬局に10年以上勤務。また小売業での接客職も経験。それらを通じて、多くの人の喜怒哀楽に触れ、そのコラム執筆からライター活動をスタート。現在は、様々な市井の人にインタビューし、情報を収集。リアルな実体験をもとにしたコラムを執筆中。