仕事で求められる“資格取得”。試験に合格することも大切ですが、それ以上に重要なのは学ぶ姿勢と責任感かもしれません。今回は、筆者の知人が職場で体験した忘れられないエピソードを紹介します。

新人2人の挑戦

私の働くドラッグストアの社員は、入社1年目から必ず「登録販売者試験」を受けることが決まっています。合格率はおよそ60%。決して簡単な試験ではありませんが、受験者たちは毎年この資格取得を目指して努力しています。

この年、私の店舗で受験することになったのは、新入社員の菅野さん(仮名)と、同時期にパートとして入社した増田さん(仮名)の2人。

やる気の差

試験が近づくにつれ、菅野さんのやる気は目に見えて下がっていきました。社内で行われる模擬試験にも消極的で、結果もいまひとつ。周囲が「また次だね!」と声をかけても、「やる気出ないんですよね」と一蹴。一方の増田さんは、勤務後に残って勉強する姿がよく見られ、周囲も「努力家だね」と感心してしまうほど。

そして試験当日。試験を終えると、自己採点結果を会社へ提出する決まりがあります。増田さんからは「何とか合格ラインはいけそうです!」と明るい報告がありましたが、菅野さんからは連絡がありません。

驚きの不合格理由

しばらくして会社本部から、「菅野さんから自己採点報告が届いていない」と連絡が入りました。慌てて本人に連絡すると、「あ、忘れてました~」と軽い返事。「結果どうだった?」と聞くと、「ダメっぽいです。来年頑張りま~す」と笑いながら言いました。それから2か月後、合格発表の日。増田さんは無事に合格。菅野さんは不合格でした。

数日後、増田さんが小さな声で話す言葉に、私は耳を疑いました。「私、試験会場で菅野さんのすぐ後ろの席だったんです。全然動かないから集中してるのかと思ったら、眠くて寝てたらしくて……」さらに自己採点は55点。合格ラインの85点には遠く及ばない数字。今までうちの店で受験したスタッフの中で、これほど低い点数で落ちた人はいませんでした。

その後の態度

不合格が確定した後、菅野さんの勤務態度は急に悪化しました。注意しても返事は曖昧、遅刻も増え、ついには無断欠勤。最終的には退職代行を通じて退職の連絡が入り、あいさつもないまま職場を去りました。

資格は努力すれば誰でも挑戦できます。けれど、責任感や誠実さは、一朝一夕では身につきません。「資格を取れるかどうかよりも、仕事に向き合う姿勢の方がずっと大事だから」と菅野さんを見守っていた私を含む同僚たちも残念な気持ちに。

社会人としての合格ライン

働く上で求められる“合格”は、点数では測れません。真面目に学び、約束を守る——その積み重ねこそが、信頼を生むのだと思います。菅野さんの不合格は、試験だけでなく社会人としての課題を映していたのかもしれません。

【体験者:30代・女性パート、回答時期:2025年10月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。