これは、私が職場で出会った年配社員・岩本さん(仮名)とのエピソードです。パソコンの操作が不得意な岩本さんをはじめは迷惑だと感じていたのですが、やがて大切な思い出に変わった理由とは……。

パソコンが苦手な大先輩

私の職場には、もうすぐ定年を迎える年配の男性社員、岩本さんがいました。長年の経験や人脈で頼れる一方で、パソコンだけはからっきしダメ。一人一台パソコンが支給されており、自然とサポート係は私になっていました。

「戻るボタンどこ?」「文字が消えた!」「ここに線を書きたい!」など、毎日のように呼ばれるのですが、できないことへのイライラをこちらにぶつけてくるので、正直最初は迷惑に思っていました。

思わず笑ってしまった瞬間

ある日、私がトイレで席を外している間に、岩本さんが「印刷ができない!」と騒ぎ出したことがありました。周囲も「またか」と見て見ぬふり。私が戻ると、まるでレストランで店員を呼ぶように「印刷できんから手伝ってくれんか!」と大声で呼ばれました。その必死な姿にイライラしながらも、思わず笑ってしまったのを覚えています。

「もう〜今日は何ですか〜」と半分あきれながら対応するうちに、それが次第に楽しくもなっていきました。

優しい一面との出会い

次第に、岩本さんの優しい一面も見えてきました。ある日こっそり和菓子をくれたり、雑談の合間に気遣いの言葉をかけてくれたり。突然、岩本さんがお孫さんの写真を見せてきて、「可愛いですね〜」なんて言いながら、盛り上がることもありました。

最初は「迷惑だ」と思っていたのに、気づけば放っておけない存在になっていたのです。

最後に届いた贈り物

そして今年の夏、岩本さんはついに定年退職を迎えました。会社を出るとき、「ありがとう、ありがとう」と何度も繰り返しながら去っていった姿が忘れられません。

しばらくして電話がかかってきて、「自分が作ったお米を送りたいから住所を教えてくれ」と言われました。ちょうど米不足が騒がれていた時期で、「困っているかもしれないと思って」との気遣いでした。今度は私のほうが助けてもらう番になってしまいましたね、と笑いながら話したことを覚えています。

イライラしながら支えてきた日々が、最後には温かい贈り物に変わりました。「岩本さん、本当にありがとう!」――これからも忘れることのない、大切な思い出になった出来事です。

【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年9月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:北山 奈緒
企業で経理・総務として勤務。育休をきっかけに、女性のライフステージと社会生活のバランスに興味関心を持ち、ライター活動を開始。スポーツ、育児、ライフスタイルが得意テーマ。